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概要


心血管系の難治疾患・コモン疾患(特に不整脈・突然死)の病態解明研究を、多角的アプローチ(ゲノム研究、パッチクランプ実験、遺伝子組み換えマウス、計算科学的研究など)により行っている。得られた成果を元に、患者に還元できるトランスレーショナル研究を目指している。
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研究活動


#B(1) 心房細動の研究#BR
心房細動は最も頻度の高い持続性不整脈であり、日本における患者数は約350万人に上る。心原性塞栓による脳梗塞(本邦で年間約25万人)を高頻度に合併し、寝たきり老人の主要な原因の1つである。心房細動は高齢者で罹患頻度が飛躍的に上昇し、また心房細動患者は非患者に比べて認知症の頻度が約2倍高い。したがって、超高齢化社会を迎えたわが国では心房細動の予防・治療法の確立が急がれている。
#B(A) 心房細動関連遺伝子多型の研究#BR
本研究室は、理化学研究所主導で行われているオーダーメイド医療実現化プロジェクト(第1期2006年~2007年、第2期2008年~2012年、第3期2013年~)に参加し、全ゲノムアプローチ法(genome-wide association study [GWAS])により心房細動発症に関わる遺伝リスクを網羅的に解析している。昨年度は国際的メタ解析(CHARGE study)に参加し、心房細動の遺伝的リスクとして、合計10のリスクの同定に成功した。
(理化学研究所ゲノム医科学研究所尾崎浩一博士、久保光明博士、本学バイオリソースセンター田中敏博教授、本学保健衛生学科検査学専攻沢辺元治博士、本学循環器制御内科学および不整脈センターとの共同研究)
#B(B)心房細動関連遺伝子の生物学的機能解析#BR
GWASの強みの1つと考えられているのは、網羅的解析であることから新規の疾患パスウェイが見つかり、新たな治療標的が同定されることである。そこで、新たな疾患パスウェイの同定を目指して、(A) で抽出された心房細動関連遺伝子の機能解析を行っている。有意水準がトップ2のSNPsと(A)の10リスク以外の日本人のみで心房細動との関連が同定された1つ、合計3SNPsの解析を行っている。それぞれ、心房細動のトリガーと考えられる肺静脈心筋の異常興奮、心房細動の維持機構の主原因とされる心房リモデリングのうち、細胞増殖および筋変性myolysisに関与することが示唆された。
#B(C) 心房細動関連SNPsを用いたリスク層別化#BR
GWASのもう1つの強みは、得られた遺伝情報を元に疾患発症のリスク層別化が行えることである。これを元に、将来的には個別化医療、先制医療の展開によるトランスレーショナル応用が期待される。そこで、(A)で得られた遺伝情報を元に心房細動リスクをスコア化し、25%毎に4つの集団に分類したところ、最もハイリスクの集団ではオッズ比は5.5となった。これを元に個別化医療を行ったと仮定すると、感度・特異度どもに65%となった。現状ではまだ個別化医療への応用には不十分と考えられ、ポストGWAS研究の必要性が示唆された。

#B(2) 心室頻拍・突然死の研究#BR
突然死sudden deathのほとんどが致死性不整脈の心室細動によるものである。若年者では、基礎心疾患なしに発生する特発性心室細動、中年以降では心筋梗塞に伴い発生する真しhつ細動が突然死の主な原因であることは分かっているが、その発現機構の解明と予防法・治療法の確立はいまだに不整脈研究の最重要課題の1つとなっている。本研究室では遺伝子改変マウスを用いたアプローチにより、突然死の病態解明を目指している。
#B(A) 心臓ヒス・プルキニエ系特異的転写因子の遺伝的異常と運動時突然死#BR
運動中の突然死の頻度は0.01%程度と言われており、これは競技スポーツとリクリエーションスポーツの両者で見られる。我々は、ヒス・プルキニエ系特異的に発現する転写因子が運動中の致死性不整脈の発現に関与することをマウスとヒトで見出した。マウスでヒス・プルキニエ系特異的に発現する転写因子をノックアウトすると、心室内伝導が障害され、運動時に心臓ブロックや心室不整脈が出現する。ヒト特発性心室細動患者130名でヒス・プルキニエ系特異的に発現する転写因子のシークエンス解析を行ったところ、2つの新規変異、1つのコモンSNPが3人の患者で同定された。コモンSNPは疾患原因遺伝子のmodifierとして作用することが示唆された。以上から、運動に関連した心臓突然死の遺伝的リスクの1つを同定することに成功したものと考える。
(浜松医科大学医学部生化学講座三浦直行教授、日本医科大学清水渉博士、国立循環器病センター相庭武博士、横浜労災病院野上昭彦博士、本研究所分子病態分野木村彰方教授との共同研究)
#B(B) 心筋虚血・再灌流傷害におけるパネキシン1の役割#BR
心臓の虚血・再灌流による心筋梗塞と不整脈発症は突然死の最も大きな原因である。これに先立って、短時間の虚血が繰り返されている傷害が軽減され、pre-conditioningと呼ばれている。Pre-conditioningには、心筋細胞から分泌されるATPが関与することが知られているが、ATPの放出機構は分かっていない。我々は、KOマウスを用いることによりpannexin-1が虚血による心筋細胞からのATP放出経路であること、これがpre-conditioningに関することを明らかにした。

#B(3) iPS細胞を用いた不整脈研究#BR
従来の不整脈研究は、ヒト以外の生物種(ラット、モルモットなど)の心筋細胞を用いた方法、あるいはヒト遺伝子を培養細胞(HEK細胞など)に異所性に発現させてシステムを用いて行われてきたが、実際に不整脈の発生の環境場、特に興奮-収縮連関・細胞内Ca2+ハンドリングが欠如した環境場での検討である点が重大な問題点となっている。ヒトiPS細胞から分化誘導した心筋細胞を用いることにより、この問題点のない不整脈研究が可能となることが期待される。
#B(A) ヒトiPS細胞由来心筋細胞を用いたQT延長薬評価系の確立#BR
市販薬の最も頻度の高いリコールの原因としてQT延長に伴う不整脈があり、新薬開発において厳密なQT延長に伴う安全性評価が求められている。これらの薬物性QT延長のほとんどがhERGチャネル抑制に基づくことから、新薬開発においては、①in vitroのhERGアッセイ、②in vivoのQT延長アッセイ、③ヒトでのthorough QT test(TQT)、の3つが求められている。②、③でかかる労力・コストが大きなことから、①のin vitroアッセイの精度の向上が強く求められている。特に、ヒトiPS細胞由来心筋細胞を用いることによる精度向上に大きな期待が寄せられている。そこで、本学生体材料工学研究所安田教授、国立医薬品食品衛生研究所諫田博士と共同で、ヒトiPS細胞由来心筋細胞を用いたQT延長薬評価システムの構築とそのvalidationを行っている。このアプローチの最大の問題点は、iPS細胞由来心筋細胞が比較的未熟であり、成熟心筋と性質が著しく異なることである。本年度は、成熟心筋とiPS細胞由来心筋細胞の電気生理学的相違のキー分子を、パッチ・クランプ実験とコンピューターモデルを用いてin silicoアプローチ(滋賀医大循環器内科芦原貴司博士との共同研究)で同定し、同因子を操作することにより成熟心筋に近く、薬物評価システムとして精度の高いiPS細胞由来心筋細胞の確立に成功した。
(本学生体材料工学研究所情報分野安田賢二教授、国立医薬品食品衛生研究所楝田泰成博士、滋賀医科大学循環器内科芦原貴司博士との共同研究)

#B(5)先端テクノロジーを用いた心血管系研究#BR
#B(A) Motion vector法を用いたin vitro心筋収縮能解析系の研究#BR
従来の心筋収縮能アッセイは、in vivoでの心エコー法、カテーテルによる心内圧、心容量測定など行っており、in vitroで心筋収縮性の評価は極めて困難であった。このため、薬物の心毒性はin vivo試験になるまで評価することが不可能であった。ソニー株式会社が開発したmotion vector法は、in vitroで画像処理を行うだけで心筋収縮速度、心筋拡張速度を測定することが可能である。2011年度からソニー株式会社と共同研究契約を結び、本システムの臨床応用へ向けた検討、特にヒトiPS由来心筋細胞への応用を行っている。
本年度は、本システムの抗癌薬の心毒性の評価への応用を検討した。
(ソニー株式会社メディカル事業ユニット安田章夫博士、松居恵理子博士、早川智弘博士、烏野初萌博士、高橋和也博士との共同研究)
#B(B) 心臓電気現象3-Dシミュレーター構築#BR
計算力が世界1となった京コンピューターの医療分野応用の1つとして、生命現象の3-Dシミュレーターの構築が期待されている。中でも、心臓電気現象は既に細胞レベルでのコンピューターシミュレーションモデルが構築されていることから、最も実現化に近いと考えられており、また大きな問題となっている薬物誘発性不整脈の予防への応用が強く期待されている。2011年度から、内閣府最先端研究開発支援プログラム『未解決のがんと心臓病を撲滅する最低医療開発』(代表永井良三)のサブテーマ「ヒト心臓シミュレーターによる最適医療開発」(代表久田俊明)の枠組みでヒト心臓シミュレーター(UT-heart)開発の基礎データ取得とシミュレーターのvalidationを担当している。本年度は、標準的な10薬物(高リスク薬、低リスク薬、非リスク薬)の5種類のイオン電流に対する作用を解析した。今後は、このデータをUT-heartに反映させることで、心毒性を評価できるか検討を行う。
(東京大学新領域創成科学科久田俊明教授、杉浦清了教授、岡田純一博士、エーザイ株式会社澤田光平博士、吉永貴志博士との共同研究)
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教育活動


医学部
 2年生 神経生理学導入(2コマ)
 2年生 生理学(6コマ)
 3年生 循環器学(1コマ)
 4年生 プロジェクトセメスター
保健衛生学科検査学専攻
 3・4年生 心臓生理学(科目責任者、8コマ)
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