概要 研究活動 教育活動
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概要

 私たちの分野では「生体の防御と恒常性維持機構の解明」に焦点をあて、それらを担う免疫細胞や組織幹細胞の分化・機能を、正常および疾患病態において理解することを目的としている。樹状細胞・マクロファージなどのミエロイド系細胞や、血液・腸・皮膚などの組織幹細胞を研究対象として、免疫系、組織幹細胞系、さらにはそれら異系間相互作用による恒常性維持機構とその破綻による病態構築機序の解明に取り組んでいる。また、それら成果に基づき、難治性疾患の予防法・治療法の開発へ繋がる応用研究への糸口が得られるよう研究を推進している。
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研究活動

1. ミエロイド系細胞の分化・機能研究
1)樹状細胞・マクロファージ前駆細胞の同定と関連病態解明・治療法開発
樹状細胞(Dendritic Cell, DC)は、抗原提示能に優れた従来型樹状細胞(cDC)と、ウィルスや自己の核酸に応答して大量のインターフェロンを産生する形質細胞様樹状細胞(pDC)に分類される。私たちの研究グループは、DCだけを大量に産みだす“DC前駆細胞”をマウスで同定し、共通DC前駆細胞(Common DC Progenitor, CDP)として報告した(Immunity 2013; Nat Immunol 2007)。CDPは、M-CSF受容体(M-CSFR)発現の有無を指標に2種類に分類される。M-CSFR+CDPは主にcDCを生み出すが、M-CSFR-CDPはpDCへの分化能に優れていた。
単球は、定常状態においても腸や真皮に異動して組織マクロファージに分化するが、感染や損傷に伴い、それ以外の組織にも積極的に流入してマクロファージに分化、炎症や組織修復に関与する。単球の源である共通単球前駆細胞(Common Monocyte Progenitor, cMoP)は、マウスにおいて最初に同定されたが、ヒトcMoPは未同定であった。私たちの研究グループは、ヒト臍帯血や骨髄を用いてヒトcMoPの同定に成功し、ヒト単球分化経路を明らかにした(Immunity 2017; Int Immunol 2018)。ヒトcMoPは、単球・マクロファージへの優れた分化能を示す一方、他の血液細胞へは分化しなかった。単球は、慢性骨髄単球性白血病(CMML)に関与するため、製薬企業との共同研究として、ヒトcMoPを効果的に除去できる抗体―薬剤複合体(ADC)を作製して、CMML PDXモデルに投与したところ、骨髄や末梢血中から白血病細胞がほぼ完全に消滅した。また、単球は腫瘍の増殖進展を促す腫瘍関連マクロファージ(TAM)に分化するため、担がんヒト化マウスにADCを投与したところ、末梢血単球に加えて腫瘍内TAMが消滅し、腫瘍塊の有意な縮小が認められた(Front Immunol 2021)。単球は様々な炎症性疾患にも関与するため、ヒト単球系列特異的なADCの適応拡大も期待される。

2)ミクログリアによる脳恒常性維持・低下機構の解明
脳のマクロファージであるミログリアは、若齢期には神経組織形成・再生や貪食能に優れ恒常性維持に積極的に貢献しているが、加齢に伴い徐々に炎症形質が顕著になり、脳機能が徐々に低下していく。私たちの研究グループは、当該ミクログリア形質転換プロセスの原因となる転写制御変容を、細胞機能変化の最も初期に起こるエンハンサーの活性化を指標に解明することを目指している。理化学研究所で開発された一塩基レベルで活性化エンハンサー領域を計測可能な新技術NET-CAGE法を用いて、新規ミクログリア活性化エンハンサー36,320領域、加齢に伴い発現が増減するエンハンサー937領域の同定に成功、さらにクロマチン高次構造解析により当該エンハンサーにより調節されるコード領域を解析中である。エンハンサーの活性化は細胞種特異的であるため、プロモーターやコード領域を標的にする場合と異なり、ミクログリア特異的機能制御法の開発につながる可能性が期待される。

2. 組織幹細胞の研究
1) 免疫系—組織幹細胞系の連関による組織恒常性の維持と破綻
何ら感染の起きていない個体においても、I型インターフェロン(IFN)は微量ではあるが持続的に産生されている。私たちの研究グループは、この生理レベルのI型IFNシグナルが造血幹細胞(Hematopoietic Stem Cell, HSC)ストレスとして働き、同細胞の幹細胞性低下の原因になることを報告した(Nat Med 2009)。この成果に基づき、当該I型IFNシグナルの小腸上皮幹細胞(Intestinal Stem Cell, ISC)への影響を検討したところ、HSC同様、ISCの数や機能を低下させること、その結果、分泌系前駆細胞への分化が促されることが判明した(Nat Cell Biol 2020)。大腸上皮幹細胞(Colonic Stem Cell, CSC)でも同様に幹細胞性が低下しており、DSS腸炎モデルにおいて全個体が死亡した(Sci Rep 2020)。
腸上皮損傷後の再生起点細胞が数種類報告されているが、それらの上皮再生における貢献度の軽重は不明である。私たちの研究グループは、細胞運命追跡技術を用いて、放射線照射による腸損傷後に生き残った細胞のシングルセル解析を行い、腸損傷後の主たる再生起点細胞の同定に成功した(Sci Rep 2020)。

2)ヒト舌癌オルガノイドバイオバンクの構築と治療法開発
扁平上皮がんは、口腔、食道、肺、子宮頸部などの扁平上皮組織に生じるがんである。舌がんは口腔がんのおよそ6割を占め、進行がんでは5年生存率が42%と極めて低く、根治治療後の再発率も高い。同様に、日本を含むアジア諸国に特徴的な食道扁平上皮がんも、根治治療後の再発率は非常に高い。私たちの研究グループは、多施設共同研究として、これまでに報告のないヒト舌がん及びヒト食道扁平上皮がんに特化したオルガノイドライブラリーの構築に成功している(舌がん34症例、食道がん18症例、継続中)。また、実際に臨床治療に用いられる抗がん剤に抵抗性を示すがんオルガノイドを各々4症例樹立している。これら独自のリソースを用いて、抗がん剤耐性獲得機構の解明と創薬探索を進めている。
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教育活動

 医学部医学科免疫学講義、生命情報科学教育部修士課程講義、大学院医歯学総合研究科博士課程生体防御学特論、演習、実習、さらに他大学非常勤講師として大学院セミナーを担当している。また大学院博士課程の学生に免疫学、組織幹細胞学の教育研究指導を行っている。
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