概要
医学の進歩により社会の高齢化が進み、健康寿命(自立して動ける寿命)を延ばすことが重要な課題となっている。整形外科は、運動器治療を担う診療科であり、その役割は益々重要性を増してきている。
こういった状況を受けて、本講座は平成19年に開設された寄付講座である。医学の他、化学、工学などの先端技術を応用した整形外科治療の開発を目的として研究を行っている。研究は整形外科学分野と連携して行っており、再生医療の分野では主に骨再生法の開発や、それに関連した人工骨の開発・評価などのトランスレーショナルリサーチを、変性疾患に関する分野では関節軟骨の変性や細胞の老化に関する研究などを進めている。人工骨の開発など、研究成果の一部は、既に臨床応用され、整形外科治療に貢献している。
研究活動
本講座における研究は、整形外科領域における最新の治療を開発し臨床応用を実現することを目的とする。主な研究テーマは以下のとおりである。
1. 骨の再生医療
外傷や骨腫瘍などで生じた大きな骨欠損は、骨折とは異なり自己治癒能力のみでは再生することはない。また、欠損が残存したままでは日常生活を送ることすら困難になる。我々は、骨再生の足場となる人工材料に骨髄間葉系幹細胞や薬剤などを組み合わせた骨再生方法の開発を進め、その臨床応用を目指した研究を行っている。
2. 人工骨の開発、評価、応用法の開発
骨再生の足場となる新規人工骨の開発と評価を行っている。これまでの成果ではスポンジ状の弾力性と優れた操作性を有した多孔質ハイドロキシアパタイト・コラーゲン(HAp/Col)の開発に成功した。産学官連携で研究開発がすすめられ、臨床治験を経て発売されており、既に整形外科手術で広く使用されている。今後は、この多孔質HAp/Colを用いた新しい治療法の開発も進めていく予定である。
3. 骨、軟骨の加齢による変性メカニズムの解明
骨粗鬆症や変形性関節症などの加齢に伴う退行変性の分子学的メカニズムの解析を行い、新規治療法の開発を目指している。
4. 人工股関節のデザイン解析
これまでに行われた人工股関節置換術の臨床成績を客観的に評価し新規人工股関節のデザインや素材の開発に役立つフィードバックを行うことで、新しい人工股関節の開発につなげることを目指している。
教育活動
教育に関しては、整形外科学分野の大学院生の研究指導、論文指導を中心に行っている。実験室での実技指導の他、週2回のリサーチプログレスとジャーナルクラブなどを通しての研究指導および論文指導を行い、学位の取得と海外一流ジャーナルへの掲載を目指す。