職名 |
氏名(カナ) |
研究者情報 |
教授 |
大橋 健一(オオハシ ケンイチ) |
研究者情報 |
講師 |
山本 浩平(ヤマモト コウヘイ) |
研究者情報 |
助教 |
山本 くらら(ヤマモト クララ) |
研究者情報 |
技術職員 |
古川 あすか(フルカワ アスカ) |
研究者情報 |
概要
病理学Pathologyとは、言葉が病気(pathos苦難)+理論(logus理ことわり)を示すように、病気を理論立てて理解する学問分野である。その後、病気の原因となる研究対象が細分化し、研究手法が進歩することによって、細菌学(微生物学)、寄生虫学(医動物学)、免疫学、分子生物学などが病理学の範疇から分離独立していった。近年、従来の学問分野の枠組を越えた再編が進行し、学問分野は目的、研究対象、研究方法によってさらに細分化する傾向にある。現在、病理学は形態学を基盤として、病気の原因(病因etiology)、病変の成り立ち(組織発生hisitogenesis)、病態(発生機序pathogenesis)を理解、整理する学問とされている。病理学の中では、実験動物、培養細胞を用いて実験的に仮説を証明していく実験病理学、細胞生物学的な分野と、臨床と密接に関連した病理診断学、臨床病理学的な分野が分離する傾向にあり、人体組織を取り扱う後者に携わる病理学者が多くなっている。
本学人体病理学分野ではヒトの病気の病理学的診断を正確になし得る病理専門医を育成すると同時に、ヒトの病気の病因、組織発生、発生機序の解明を目指し、研究結果が臨床、病理診断の向上に結びつく研究を遂行できるリサーチマインドに富んだ病理学研究医の育成を目指している。
研究活動
1.ヒト癌について
大きく3つのことを目的としている。(1)癌の成り立ち、組織発生について:食道癌、胃癌、大腸癌、潰瘍性大腸炎など炎症性腸疾患に合併する大腸癌 、肺癌を対象として、病理組織学的解析、臨床病理学的解析、遺伝子解析などによって前癌病変を明らかにし、前癌病変から癌が発生する過程、分子基盤を明らかにする。(2)癌に関わる病理診断の客観化について: あらゆる臓器から発生する癌は、その臓器に発生する良性腫瘍との鑑別が問題となり、良性悪性の境界領域腫瘍も存在する。また、臨床的な重要な意義を持つ病理学的所見についても主観的な判断に基づくものが多く、所見の客観性、再現性、観察者間の一致率が問題になっている。病理診断においてもコンピューター、Ai、画像解析技術を応用する事は重要であり、近年進歩が著しいゲノム情報、様々なマーカー発現等の情報を総合した新しい病理診断学の確立が求められている。(3)悪性腫瘍の進展、転移機序について: ヒト食道癌、胃癌、大腸癌、肺癌において、早期癌が多く見つかり、内視鏡的切除など縮小した手術、治療が多く行われているが、早期の段階から転移を示す高悪性度例もあり、それを早期の段階で診断し、適切な治療法を選択できるようにする必要がある。早期の癌の浸潤過程において、転移、再発に関係した病理学的な所見を明らかにして、それらに密接に関与する分子基盤を明らかにする事が重要である。病理診断に応用できるマーカーを確立することによって、より精度の高い病理診断が可能になると考えられる。
2.慢性炎症について
原因不明の慢性炎症性疾患について、病変部局所を病理学的立場から徹底的に解析し、その病気の病因、成り立ちを明らかにする。また、診断に役立つマーカーなどについても開発し、実際の病理診断に応用する。1)サルコイドーシスに関しては、Propionibacterium acnes(アクネ菌)の深部臓器における細胞内潜伏感染と、その内因性活性化に伴う急激なautophagyの活性化およびTh1免疫反応の誘導が肉芽腫形成の原因となっている可能性につき免疫病理学的な観点から研究している。アクネ菌感染がサルコイドーシス以外の疾患にも関与しているとの報告が蓄積されているが、他疾患との関係についても研究を進める。2)Helicobacter pylori(ピロリ菌)の胃粘膜表層での感染が慢性胃炎を生じる病理発生機構に関して、本菌が粘膜表層上皮障害に起因して粘膜固有層に進入し胃所属リンパ節にtranslocateすることが判明したことから、これが粘膜内の免疫担当細胞を直接刺激することで胃粘膜の慢性炎症に寄与するとともに、リンパ節に流入後は傍皮質領域において免疫系を慢性的に刺激している可能性につき研究している。また、ピロリ菌についてはその構造の違いによって、胃癌発生のリスクが異なることが知られている。ピロリ菌の構造と発癌リスクの関係を解明し、ピロリ菌の発癌リスクを評価できる検査キットの開発も行っている。3) 潰瘍性大腸炎、クローン病など炎症性大腸炎に見られる特徴的な病理学的所見を解析し、それらの発生機序、意義を検証している。また、生検材料を用いた腸炎の活動性についての評価、分子マーカーの発現について研究している。4)全身性アミロイドーシスの病型診断は患者の治療方針を決定するためには非常に重要であるが、有用な診断用抗体が十分には揃っていない。病理診断の精度を向上できる診断用抗体の開発、応用について研究を行っている。
教育活動
大学院博士課程では学位取得とともに日本専門医機構認定の病理専門医資格の取得も目標にしている。まずは、人体病理解剖、生検組織診断、迅速組織診断、手術標本の組織診断などの研修を行い、診断病理学分野(附属病院病理部・病理診断科)ならびに関連病院病理診断科で診断病理学(外科病理学)の研鑽を積み、病理学者としての基盤を形成する。研修中は臨床各科との合同症例検討会に参加し病理診断を発表すると共に、各臨床分野における現時点での問題点を把握し、それについて臨床医と討論あるいは共同研究を行う。病理学者としての基盤を形成しつつ、ヒトの病気の原因、診断、治療などに直接関わっている問題点をテーマとして臨床病理学的、免疫組織学的、分子病理学的方法を用いて研究をすすめる。成果は国内外の学会、英文学術雑誌に発表を行う。
教育方針
社会が医療に要請していることは、正しい診断のもとに適切な治療がなされることである。従って、人体病理学分野では、生検組織・手術標本の病理組織診断および病理解剖など、いわゆる臨床病理学の研鑽を積むことに重点を置くと共に、ヒトの病気の原因、成り立ち、診断、治療に直接関係する多くの問題について、“強い問題意識と深い思索"のもとに研究することを目指している。研究の成果は病気の理解を深めるとともに、臨床、病理診断に直接役立つものが求められる。
臨床活動および学外活動
医師免許を有する大学院生は原則全員が医学部附属病院病理部・病理診断科の業務を兼務し、病理診断、病理解剖の研修を行い、病理専門医資格の取得を目指す。また、スタッフ、大学院生は東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、茨城県内において、地域医療を支える中核的な東京医科歯科大学の関連病院の非常勤医として、病理診断をサポートし、共同研究を行っている。人体病理学分野では病理診断の精度を向上させることによって、地域医療、社会に貢献していきたいと思っている。また、地域の病院等における各種講演会、カンファレンスでの発表、参加にも積極的に協力している。日本病理学会をはじめ各種の学会の活動には積極的に参加、協力しており、特に病理学会においては運営に携わり、中核的な役割を担っている。厚生労働省など省庁の各種委員会等にも積極的に参加、協力している。
臨床上の特色
明治時代以来、医学部に於ける人体病理学分野は基礎医学に属していたが、近年の病院における病理学の役割は実質的に臨床医学の一部になっている。すなわち、臨床各科の患者の病気診断に際しては、内視鏡的外科的に病変組織の一部を採取(生検組織)あるいは病変部から細胞を採取し、それを基に顕微鏡で直接病変を眺め病理組織学的診断 (生検組織診断、細胞診) を行い臨床各科へ報告する。手術で除去された臓器・組織については、病理組織学的に病変の拡がりとその性質を検索すると共に、手術の適切性を判断し、手術後の治療方針決定のための資料とする。また、患者の治療過程においては、病変部から経時的に採取された組織を病理組織学的に検索し、治療効果を判定する。患者が不幸にも鬼籍に入った場合、生前の検査所見と治療法の選択及びその効果を検討する為に主治医とともに病理解剖を行い、以後の診断と治療に役立たせる。いわば、人体病理学分野は本学の組織体制上では診断病理学分野と別分野になってはいるが、実際的には一心同体である。人体病理学分野は直接患者に接することはないが、患者の診断・治療の点において直接的に深く関わっている。一人の患者を中心とした臨床各科の医師と臨床病理医間の意志疎通と強い連携診療は、最良の診療を行うための必須条件であり、これを現代社会は特定機能病院としての大学病院に要請している。それ故に、人体病理学分野の医師は”doctor of doctors”とも云われている良き臨床病理医であるべく、日々、診断病理学分野と一体となって人体病理学の研鑽に努め、患者のための病理学の実践と研究を遂行している。