概要 研究活動 教育活動 教育方針 臨床上の特色
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概要

 本講座では、主に持続感染ウイルスに対する宿主防御機構の研究を行い、免疫と病態のかかわりを解明し、免疫治療法の可能性を追求する。この分野は、ウイルス学と免疫学の中間、基礎と臨床の中間に位置する。ヒトレトロウイルス(HTLVとHIV)は、ヒトに持続感染し、腫瘍、自己免疫疾患、免疫不全等の様々な病態を引き起こす。これらの病態は、ウイルスそのものの病原性だけで説明し得るものではなく、宿主の免疫応答が密接に関わっている。当研究室では、これらの持続感染性ウイルスによる病態の背景にある、ウイルスと宿主免疫の攻防と共存の関係を把握することを大きな研究テーマとしている。このため、生体を用いた感染免疫・腫瘍免疫解析を一つの柱とし、ウイルス感染による細胞内情報伝達の変化とウイルス複製の分子機構の解明をもう一つの柱とする。

研究項目
・ 成人T細胞白血病(ATL)の発症予防・治療を目的とする免疫療法(抗腫瘍ワクチン)の開発
・ HTLV-I感染による疾患の発症機序と発症リスクに関する研究
・ ウイルス持続感染における自然免疫の役割に関する研究
・ HIV-1インテグラーゼを中心とするHIV複製の分子機構の研究
・ HIV-1感染防御およびHIV複製抑制に関する免疫研究
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研究活動

①ATLに対する腫瘍ワクチン療法の開発ならびに臨床試験
  これまで長年に渡り我々が蓄積してきた動物実験や臨床検体を用いた免疫研究成果を踏まえ、成人T細胞白血病(ATL)に対する免疫療法(腫瘍ワクチン)を開発した。この療 法は、体外で成熟させた患者自身の樹状細胞に、HTLV-I Taxのオリゴペプチドを抗原として添加しワクチン接種するものである。使用ペプチドのアミノ酸配列は、我々が同定したHTLV-I Tax特異的CD8陽性細胞傷害性T細胞(CTL)の主要標的エピトープ配列であり、HLA-A2, HLA-A24, HLA-A11のいずれかを持つ症例に適応可能である。2012年から、東京医科歯科大学、九州がんセンター、九州大学間の共同研究で、既治療のATL3 症例に対して臨床研究を行い、3例中2例で部分寛解以上の結果を得た(Suehiro, Y., Hasegawa, A., et al. Br J Haematol. 2015)(Kannagi, Hasegawa, et al. Cancer Science, 2019)。現在、これをさらに発展させ、HLAに限定されない免疫療法の開発を行っている。

②生体内のHTLV-I遺伝子発現抑制機序、ATL細胞の癌化機序への自然免疫の関与
  末梢血から分離直後のATL細胞にはHTLV-I蛋白は検出されず、数時間の培養後急激に発現する現象が知られているが、その機序は謎であった。また、 ATLに対し一時的に効果を持つAZT/IFNαの併用療法は欧米で既に10年以上臨床実践されているもののその機序は不明であり、ATL細胞における NFkBの恒常的活性化機序も長年不明のままであった。我々は、これらの機序にI型インターフェロンを含む宿主の自然免疫応答が関与することを見いだした (Kinpara, S., et al. Retrovirol. 10: 52, 2013、Kinpara, S., et al. Leukemia, 29:1425-1444, 2015) 。さらにHTLV-1がウイルス側の違い無しに全く異なる腫瘍性疾患と炎症性疾患をおこす機序は、ウイルス発見以来の謎であったが、我々は感染細胞内外のIL-10優位な微小環境が腫瘍化への方向性の鍵を握っていることを見いだした(Sawada, et al. PLOS Pathog, 2017)これら一連の結果は、これまでウイルス側の因子のみで論じられて来たATL発症機序についての概念を打ち破るものであり、宿主の獲得免疫に加えて自然免疫がHTLV-1感染症の疾患機序に関わることを示して いる。(Kannagi, Hasegawa, et al. Retrovirology, 2019)

③ HIV-1新規制御機構の分子基盤
ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV−1)複製の特徴であるウイルスゲノムの「逆転写」と「組み込み」反応の分子機構解明から、新たなHIV-1制御法の分子基盤の確立を目指している。我々は、世界に先駆けてHIV-1の組み込みを触媒するウイルス酵素であるインテグラーゼ(IN)が「逆転写」反応にも必須な役割を持つことを見出し、HIV阻害剤開発の新たな分子標的となりうることを提唱してきた (Masuda. Front Microbiol, 2011)。最近、我々はINが逆転写酵素(RT)融合したpol前駆体蛋白質としてHIVゲノムに作用することが逆転写反応に必須であることを見出した(Takahata et al., J. Virol. 2017)。また、HIVの逆転反応を無細胞環境下での再構築系を確立し、HIV逆転写反応の律速過程の明確化とその制御に関与するHIVゲノムの5’-末端塩基の重要性を世界に先駆けて見出した(Masuda et al. Sci. Rep. 2015, Huang et al, BBRC, 2019)。これら一連の研究により、HIV複製機構の新たな概念が形成され、新規コンセプトを有するレトロウイルス阻害剤開発への展開が期待される。
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教育活動

① 卒前教育では、免疫学I, II講義、プロジェクトセメスター、前臨床実習Iを分担する。
② 大学院学生は、ウイルス学、免疫学、分子生物学の基本的な手技の取得、バイオハザードの概念の理解と実践を行う。実験室の維持と運営には全員で当たる。カンファレンス、抄読会の参加を義務づけ、関連分野の知識の蓄積とフォローアップを行う。
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教育方針

我々は、これらのウイルス持続感染症を通して、生体内細胞集団間の相互作用の観点と細胞内分子機構の両面から、病態発現機構の解明を目指しており、その知見の臨床側への還元とともに、これを応用した免疫治療法開発を最終的な研究目標としている。

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臨床上の特色

ATLに対する治療ワクチン(Taxペプチドパルス樹状細胞療法)を開発し、東京医科歯科大学、九州がんセンター、九州大学間の共同研究で、臨床試験を実施中である。この免疫療法の他、造血幹細胞移植を含む種々の治療後のATL患者、また未治療のHTLV-1感染者のT細胞免疫応答評価も依頼に応じて行っている。
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