概要 研究活動 教育活動 教育方針
ホームページ https://www.tmd.ac.jp/med/nuro/index.html

スタッフ

職名 氏名(カナ) 研究者情報
教授 横田 隆徳(ヨコタ タカノリ)
准教授 西田 陽一郎(ニシダ ヨウイチロウ)
講師 桑原 宏哉(クワハラ ヒロヤ)
助教 八木 洋輔(ヤギ ヨウスケ)
特任教授 三條 伸夫(サンジョウ ノブオ)
特任准教授 中山 東城(ナカヤマ トウジョウ)
特任講師 原 倫太朗(ハラ リンタロウ)
特任講師 藤 加珠子(トウ カズコ)
特任助教 坂上 史佳(サカウエ フミカ)
特任助教 吉岡 耕太郎(ヨシオカ コウタロウ)
特任助教 三浦 元輝(ミウラ モトキ)
大学院生 長谷川 樹里(ハセガワ ジュリ)
大学院生 佐野 達彦(サノ タツヒコ)
特任研究員 天野 晶子(アマノ アキコ)
特任研究員 友利 貴人(トモリ タカヒト)
このページの先頭へ▲

概要

脳神経病態学分野(脳神経内科)は、ヒトにとってそのアイデンティティを決定する最も大切な脳を含む神経・筋の疾患を扱う分野です。 その診療は問診と全身の神経診察からの情報が診断の中心となる内科の中でも最も内科らしい診療科です。
脳神経内科は頭痛・めまい・しびれ・ふらつき・物忘れなどの日常よくある症状の初期診療を行い、脳卒中(脳血管障害)、認知症、てんかんなどの頻度の多い疾患(コモンディジーズ)から、多発性硬化症などの神経免疫疾患、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄小脳変性症などの神経変性疾患を含む神経難病や、筋ジストロフィー症などの筋疾患など多岐に渡る疾患を担当しています。今後もこれらの神経内科の多種・多様な疾患を広くカバーし 、バランスのとれた良質の診療を提供していきます。
当科は初代塚越廣教授、2代目宮武正教授、3代目水澤英洋教授、4代目横田隆徳教授の時代を通じて臨床の充実を何よりも重視し、その研究は臨床から見出した問題点を解決する臨床問題解決型の研究を行って参りました。その結果、数々の世界トップクラスの研究成果を発信すると共に優れた人材を輩出してきました。今後もその姿勢を堅持していきつつ、さらに新時代の研究理念として、分子生物学・化学・神経科学などの基礎科学を出発点として疾患の病因究明・根本治療を目指す科学解決型の研究も併せて行っていきたいと思います。
研究科としては最も複雑で高度に分化した臓器である脳を対象とした神経科学を研究する一方、「リサーチユニバーシティ」や「オープンイノベーション機構」として認定された東京医科歯科大学の中核として、研究成果を臨床へ応用するトランスレーショナルリサーチを実践していきます。21世紀は基礎科学と臨床医学が融合し、革新的治療の生まれる「治療の世紀」になるものと予測されます。内科の研究の最終目標の1つは創薬であり、次世代の治療戦略は単一分子を標的としたバイオ医薬の開発と細胞治療を含む再生医療であることは間違いありません。私どもは、次世代バイオ医薬開発を含めた神経疾患の新規治療でも社会に貢献していきたいと考えております。
本格的な少子高齢化社会を迎え、アルツハイマー病や脳卒中の診療の担い手となる脳神経内科医への期待はますます高まっております。時代の要請に応えるべく、「神経疾患の克服」を教室の目標として神経内科学を発展させていきたいと思います。
このページの先頭へ▲

研究活動

当研究室は、本学脳統合機能研究センター(CBIR)で認知症研究部門の基礎研究室を合わせて運営しており、アルツハイマー病などの神経変性疾患の新規核酸医薬(ヘテロ核酸)や抗体医薬を用いた分子標的治療、診断の研究を行っています。現在、文科省科学研究費基盤S やAMEDの先端的バイオ事業や脳科学研究戦略推進プログラム(脳プロ、融合脳)の3つの国家プロジェクトや複数の大手製薬企業との大型共同研究によって、継続的にかつ基礎から臨床に及ぶ広範囲の研究を行い、発展させています。
当教室の研究テーマは下記のように多岐にわたっています。
(1) 核酸グループ
(2) 先端的脳画像による病態解明、多モダリティー学習を行う「人工知能」の開発
(3) 神経疾患の体液バイオマーカーの検索
(4) アルツハイマー病の病態解明と治療薬の開発
(5) 筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因究明と治療法開発研究
(6) 脳血管障害
(7) 脊髄小脳変性症の分子遺伝学的方法による病態解明、及び治療法開発
(8) 血液脳関門の機能制御を目指した研究
(9) 神経生理学的な臨床研究
(10) 脱髄性中枢神経疾患における神経変性プロセスの解析
(11) 神経病理

各論
(1) 核酸グループ
1.第3の核酸医薬の創生
次世代の創薬は分子標的治療が中核になることは間違いありませんが、核酸医薬とは6-30塩基の短い天然型または非天然型の核酸(オリゴヌクレオチド)を基本骨格として利用する医薬品です。細胞膜表面のある分子しか標的にできない抗体医薬と異なって、noncoding RNAなど細胞内のあらゆるRNA分子が標的になり、さらにRNA編集やRNA-タンパク結合制御などが可能となる優位性から次世代医薬として大きく期待されています。現在特に盛んに臨床応用が進められている核酸医薬はアンチセンス核酸医薬(ASO)、small interfering RNA(siRNA)の2種類ですが、一方で肝臓以外への標的臓器への導入効率や遺伝子制御の有効性において不十分であることが課題となっていました。
 我々の教室では、 「第3の核酸医薬」としてDNA/RNAヘテロ2本鎖核酸を考案しました。ヘテロ核酸は従来の核酸医薬の20-300倍の飛躍的な有効性の向上とともに、神経系を含むあらゆる臓器や細胞への導入が可能とした革新的な新規核酸医薬で、1本鎖DNAであるASOや2本鎖RNAである siRNAと異なる作用機序を有しています。
 その革新性から既に28の特許プールを確保し、CREST・革新的バイオ・先端的バイオ事業の大型研究費を獲得し、AMEDから今後の我が国の核酸医薬の創薬の中核基盤技術に指定され、医科歯科大が核酸医薬創薬の日本の拠点になりました。
 さらに、2015年1月にはヘテロ核酸の臨床応用を目的とした医科歯科大発のバイオベンチャー企業も立ち上がって、一部は大手製薬企業にライセンスされました。
今後、現在治療法が確立されていないパーキンソン病、ALSなどの神経難病の根本治療薬開発や急性期脳梗塞の遺伝子治療などにおいて画期的な最先端の治療薬創生を目指しています。

2.ヘテロ核酸の特徴
 2本鎖ヘテロ核酸は標的mRNAに結合するアンチセンスgapmer (LNA-DNA-LNA)の主鎖と、主鎖に相補的なRNA (cRNA)からなる非天然機能核酸です。この主鎖は両端がLNA、中央部がDNAで、2本鎖の中央部がDNA-RNAヘテロ核酸になるため、この部分が細胞内のエンドヌクレアーゼであるRNase Hによって相補鎖RNAが切断されます。その結果、単独となった主鎖が標的mRNAに結合して再びRNase Hが標的mRNAを切断して遺伝子抑制効果を発揮するデザインです。すなわち、RNase Hが相補鎖RNAと標的mRNAの切断の一人二役を果たすことにより、主鎖の結合親和性に影響を与えることなく相補鎖RNAに誘導分子を結合することが可能となった点が特徴の分子技術です。
2本鎖ヘテロ核酸の特徴である内在型の薬剤送達システムの導入分子として、我々の特許であるビタミンE (VE)をリガンド分子として結合させることにより、静脈投与で従来のASOや、VE結合siRNA(VE-siRNA)より標的遺伝子抑制効果の飛躍的な上昇に成功し、さらにその抑制率も低投与量(0.75mg/kg)でも99%以上と今までにない劇的な抑制率を達成しました。その有効性は現状の核酸医薬で最高水準です。我々その新規の分子設計と投与方法によって肝臓以外の心筋、肺などほとんどの腹部臓器に到達されました。その結果、東京医科歯科大学発の5番目のバイオベンチャー企業としてRENA Therapeutics社が創立されましたが、本年同社が日本触媒にM&Aされ、確かな経営基盤が構築されて、新規の核酸修飾技術の開発を共同で行っています。

3. ヘテロ核酸の中枢神経での効果
 ヘテロ核酸においては、その効果は肝臓に限定されており、その投与ルートも静脈投与のみで有効でした。さらに最近血液脳関門を越えて中枢神経の標的遺伝子制御が可能になりました。これは大きなブレイクスルー技術となり知財を確保するとともに、大型国家プロジェクトで基盤技術のさらなる開発と主要な神経変性疾患を標的に大手製薬企業と大規模共同研究を行っています。さらに当分野が原因遺伝子を同定したSCA31のヘテロ核酸を含む核酸医薬により原因治療もAMEDの支援を受けて大手製薬企業と取り組んでいます。

その成果から既に30を超える多数の特許、年間5億円におよぶ高額の研究資金を獲得しており、今後は現在治療法が確立されていない難病の克服や更なる最先端の治療薬創生を目指しています。

(2) 先端的脳画像による病態解明、多モダリティー学習を行う「人工知能」の開発
1. 脳画像解析を用いた病態、神経ネットワーク、治療効果の可視化
私たちは、先端的な脳画像を用いることで、患者さんの脳で実際に起きている病態を「見える」ようにする研究活動、臨床応用を進めています。複数のMRI撮像法を組み合わせることで、多彩な脳機能、構造を非侵襲的に評価するマルチモーダル脳画像を実用化しています。
具体的には、機能的MRIを用いて、神経ネットワークを同定する機能的結合(functional connectivity)(図A)、拡散テンソル画像を用いて白質による線維経路を同定する構造的結合(structural connectivity)(図B)、脳のシナプス活動を反映する血流量を評価するArterial Spin Labelling(ASL)法(図C)によって、神経ネットワークの視覚化、定量化を行っています。
これまでに、パーキンソン病患者さんの運動機能、認知機能に関わる神経ネットワークの異常(OHBM, 2015)、灰白質や白質の異常、血流変化(Hum Brain Mapp, 2012)、ワーキングメモリー施行時の脳賦活の異常(OHBM, 2018, 図D)、特発性正常圧水頭症(AJNR, 2011, 2012)の白質障害(図E)、半側空間無視に関わる空間性注意の構造的結合(Brain Imaging and Behavior, 2018)(図F)などを明らかにしてきました。
現在、画像解析を専門とする医師、大学院生、病棟医が協力して、下記の疾患の患者さんを対象に画像解析、歩行解析(両足首と腰に加速度計を装着し、治療前後や経時的に評価)、包括的認知機能評価(認知ドメインごとに評価)を行っています。
歩行解析は、単純歩行のみではなくて、7の連続引き算をしながらの歩行(dual task)、トレーとワイングラスを持ちながらの歩行(dual task)、その両者を当時に行いながらの歩行(triple task)なども合わせて行っています。このように、認知タスク、運動タスク、その両者の負荷が歩行に加わることで、脳内で干渉が起きて、代償機転などが取り除かれることでより病態が顕在化するのではないかと考えています。
私たちは、神経心理士によって、記憶機能(短期)、記憶機能(遅延)、視空間認知、言語機能、注意機能、遂行機能の6つの認知機能ドメインを、それぞれ異なる側面を評価する2つ以上のバッテリーで定量的に評価しています。検査結果は、同じ年齢の健常データと比較して正規化(z-score)し、グラフにすることで可視化し、その患者で障害されている認知機能ドメインが一目瞭然となります。
A. パーキンソン病、パーキンソン症候群
パーキンソン病やパーキンソン症候群は、ドパミン神経の変性、脱落の結果、無動、筋強剛、振戦、姿勢反射障害といった運動症状を呈し、レボドパなどの抗パーキンソン病薬によって症状が改善しうる疾患です。一方で、各症状の詳細な神経基盤や、薬剤の投与が脳の神経ネットワークにどのような変化を与えるかは十分に分かっていません。本研究では、マルチモーダル脳画像、脳内のドパミン節前細胞の神経終末を画像化するSPECT検査、歩行解析、認知機能評価を組み合わせることで、運動症状の神経基盤を解明し、レボドパ投与による神経ネットワークの変化を明らかにすることを目指しています。また、複数の感覚入力を用いたリハビリテーションを行うことで、脳の可塑性を活用しながら運動症状の改善を目指す新たな治療法も確立してゆきます。
こうした研究の成果として、症状に対応する神経基盤が同定できるようになり、より正確な診断が可能となり、治療の効果も可視化できることで、各患者さんに適した治療選択が可能となることが期待されます。
B. 筋萎縮性側索硬化症
筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis, ALS)は、大脳の運動野と脊髄の前角細胞という運動神経に選択的な障害がおきる運動ニューロン疾患として知られています。今日、ALSでは運動野以外の脳領域にも障害が進展してゆくことが知られてきています。一方、通常のMRIでは、ALSによる脳の異常を捉えることは困難で、診断に苦慮することがあります。そこで、我々は、神経ネットワークの評価、灰白質の体積、白質の微小構造、脳血流などのマルチモーダル脳画像、電気生理検査、歩行解析を組み合わせることで、ALS患者さんの脳内の構造的、機能的な異常の可視化を目指しています。
こうした研究の成果として、ALSにおける上位運動ニューロン障害を含む脳の障害が可視化され、正確な診断、進行度の評価、治療法の効果判定が可能となることが期待されます。
C. 特発性正常圧水頭症とその類縁疾患
特発性正常圧水頭症(idiopathic normal pressure hydrocephalus, iNPH)は、歩行障害、認知機能障害、尿失禁を特徴とする症候群です。iNPHは治療可能な認知症と位置づけられており、超高齢化社会の到来を受けてiNPHの診断の重要性はさらに高まっていますが、その神経基盤は未だに明らかではありません。そこで、我々は髄液除去テスト前後でマルチモーダル脳画像、歩行解析、認知機能評価を行うことで、髄液除去テストによって改善するiNPHの症状の神経基盤を同定しようとしています。
一方で、これまでの先行研究では、iNPHとの診断のもとでシャント手術を施行されたが、のちになって症状が悪化し、剖検にて別の中枢神経疾患であったとする症例も報告されています。こうした報告より、我々は中枢神経疾患を基盤に二次的に髄液除去テスト陽性となるiNPHに類似した病態があるのではないかと考えています。そのために、中枢神経疾患を有する患者さんに髄液除去テストを行い、症状とマルチモーダル脳画像の変化を比較検討する前向き研究を開始しております。
こうした研究の成果として、iNPHや髄液除去テスト陽性となる中枢神経疾患の疫学、病態、神経基盤が明らかになり、正確な診断に基づいたより適切な治療選択が可能となることが期待されます。
D. 多発性硬化症、視神経脊髄炎
多発性硬化症(multiple sclerosis, MS)は、若年の患者さんに好発し、多彩な神経症状を発症しながら、脳や脊髄に多発した病変が蓄積していくことで、症状が進行してゆく疾患です。その根本的治療法はまだ確立されていませんが、疾患の病勢をコントロールするための複数の疾患修飾療法(disease modifying therapy, DMT)が使用可能となっています。MSの疾患活動性やDMTへの応答は、患者さんごとに大きく異なっていますが、これらを短期間で正確に評価することは現状では困難です。
一方、MSに似ているが異なる疾患として視神経脊髄炎(Neuromylelitis Optica, NMO)があります。NMOでは、視神経や脊髄のみならず、脳内にも炎症が起き、中枢神経に病変が蓄積していきます。NMOの治療として免疫抑制療法が使用されることが一般的ですが、NMOの疾患活動性や免疫抑制療法への反応性を、短期間に正確に評価することは現状では困難です。
我々は、MSやNMOの疾患活動性を正確に評価し、かつ、日常臨床の一環としても実施可能で実用的なバイオマーカーの確立を目指しています。そのために、MSやNMOの患者さんを対象にマルチモーダル脳画像、歩行解析、認知機能評価などを用いた詳細な臨床評価をおこなうデータベースを確立しようとしています。
こうした研究の成果として、MSやNMOの疾患活動性がより正確に把握できるようになり、適切にDMTや免疫抑制療法を使用することで、疾患の再発を抑え、症状の進行を抑止できるようになることが期待されます。
E. 脳のシステムとしてのネットワーク解析:グラフ理論
我々は、脳全体のネットワークを包括的に解析しています。具体的には、MRIなどから得られる3次元T1強調像、拡散テンソル画像、機能的MRI画像、脳血流などのデータからそれぞれ脳の各領域間の解剖学的、機能的な結合度(connectivity)の情報を抽出します。
ネットワークを解析する手法として、主にグラフ理論を用いています。グラフ理論とは、脳を数百の細かい領域(ノード)に分割をして、その領域間が結合しているときには線分(エッジ)で結ぶことで作り出される幾何学的図形を数学的に解析します。その結果、ネットワークとしての機能を、機能的分離の程度、機能的統合の程度、ネットワークのクラスター化の程度などの観点から、定量的に評価することが可能となります。
神経変性疾患では、病気の原因となる異常タンパク質が、特定の進展パターンをとりながら、脳領域特異的に蓄積して行きます。したがって、全脳の構造的な障害パターンには、原因となる異常タンパク質の進展、蓄積が反映されていると推測しています。具体的には、アルツハイマー病やパーキンソン病の患者の3次元T1強調画像を用いて、脳の構造的ネットワークの変化をグラフ理論によって解析し、障害されている領域群をネットワーク論の観点から同定しようとしています。その障害パターンには、アミロイド、タウ、シヌクレインといった疾患特異的なタンパク質の進展、蓄積が反映されていると考えており、その証明を試みています。
将来的には、グラフ理論などのネットワーク解析を、マルチモーダル脳画像の解析に応用し、病態把握、治療によるネットワークの変化の把握、人工知能による学習と判断、へと応用していきます。

2.多モダリティーの情報から統合的に学習できる「人工知能」の開発
私たちは、先端的脳画像(神経ネットワーク、白質や灰白質の構造の評価、脳ドパミン前終末の画像など)に加えて、歩行解析、動画解析、包括的認知機能評価を、脳の各システムが障害された疾患群を対象に行っており、薬剤の投与前後の評価も含むデータベースを構築し、脳の障害されたシステムの同定や薬剤による治療効果を推定する「マルチモーダル学習」を実装した人工知能の基盤を開発しています。
A. マルチモーダル脳画像の深層学習による病態把握
我々が集積している先端的脳画像の中には、障害された脳のシステム、発症前の顕在化しない病態、治療効果などの膨大な情報が含まれていることが想定されます。
近年、人工知能が急速に発達し、なかでも特に深層学習を利用した画像分類の精度が飛躍的に向上しています。そこで私たちは、先端的脳画像を入力データとして、疾患名、行動学的指標などを教師データとして与える「教師あり」学習モデルを構築し、未知の患者の先端的脳画像を入力すると、高い精度での病態把握が可能となる人工知能の確立を目指しています。
深層学習に脳MRI画像に適用して解析するには、複数の課題がありますが、下記のように解決しながら進めています。
① 限られたデータ数からの深層学習:転移学習
深層学習は複雑な画像のようなデータを入力とし、高い精度での予測を実現していますが、その性能を発揮するには大量のデータが学習に必要となります。しかしながら医療施設では、そのように大量のデータを集めることは簡単ではありません。そこで、「転移学習」という手法を利用して、目的の画像とは異なる画像を用いて事前に学習させたモデルを用いて、目的の画像を後で追加学習させています。
② 深層学習の可視化:Grad-CAM
畳み込みニューラルネットワークを利用した深層学習は、画像認識の領域で高い性能を発揮していますが、判断の過程が不透明であることが課題となっています。そこで、人工知能の判断根拠を可視化するために、私たちは、Grad-CAM (Gradient-weighted Class Activation Mapping)技術を採用しています。これによって、深層学習がMRI画像でどの領域に注目して判断をしたかを可視化しています。


(3) 神経疾患の体液バイオマーカーの検索
当教室では、神経疾患のバイオマーカーとなるマイクロRNA(miRNA)の検索を行ってまいりました。2014~2018年度まで独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)における「体液中マイクロRNA測定技術基盤開発」に参加し,同開発事業で得られたバイオマーカー候補のmiRNAについて、各種の神経疾患における比較検討を行い、疾患特異度の検討を行うこと、病態生理上の意義付けを検討する役割を担当いたしました。
神経疾患では血液と脳脊髄液中のmiRNAの対比が重要であると考えられますが、脳脊髄液中のmiRNAはその発現量が少ないため、網羅的なアレイ解析方法や定量的評価方法がいまだ確立されていません。私たちは、神経疾患のバイオマーカーとしての脳脊髄液中miRNAの網羅的解析方法を確立することを目標の一つとしています。
さらに、今後は次世代シークエンサー (NGS) 等のツールを用いて、miRNA以外のsmall RNA, lncRNA (long noncoding RNA), circular RNA (circRNA)といった新しいタイプのRNAバイオマーカーの開発を展開していく予定です。
臨床の教室としての強みを活かし、運動ニューロン疾患やアルツハイマー病をはじめとする神経変性疾患、多発性硬化症、免疫介在性ニューロパチーなど多様な神経疾患を対象に、臨床情報とRNAデータベースを有機的に統合し、神経疾患の診断、治療に有用なRNAバイオマーカーの研究を進めています。

(4) アルツハイマー病の病態解明と治療薬の開発
厚生労働省の発表によると、日本国内において、2012年時点で65歳以上の高齢者の15%が認知症であり、認知症の高齢者は約462万人(7人に1人)であり、前段階である軽度認知機能障害が約400万人です。その約半数がアルツハイマー病であると考えられています。アルツハイマー病は65歳以降にその発症率が急増するため、効果的な開発が急務となっています。アルツハイマー病はアミロイドβタンパク質(Aβ)の凝集・沈着した老人班、異常タウタンパク質からなる神経原線維変化、神経細胞の脱落を病理学的特徴としています。近年、アミロイドβ蛋白(Aβ)の低分子重合体であるオリゴマー(AβO)が強い神経毒性を有し、アルツハイマー病発症前の初期病態に強く関わっていることが明らかとなりました。そこで、当グループでは、我々の開発した画期的な高分子のBBBの通過技術(以下(8)参照)や抗体の遺伝子工学的技術を用いて、AβOに対する特異的抗体を脳内に導入しAβOを画像化することで、アルツハイマー病発症前リスクを評価し、同じ抗体にAβO毒性緩和効果を担わせることで治療効果も実現する「theranostics」医療の実現を目指しています(脳プロ、融合脳プロジェクト)。
強い毒性を有するAβOは不安定なため、ウエスタンブロッティングなどの一般的な生化学的解析方法では定量評価することができず、これまでの研究報告では、安定な老人斑の数を測定するなどの方法で抗体薬のアミロイド除去効果を測定していました。我々は、AβOの新たな測定方法を開発し、脳内の可溶性AβOを測定する技術の開発に成功しました。
さらに、我々はアルツハイマー病に関係深い酸化ストレスによる病態メカニズムについても研究をすすめています。我々が独自に作製した慢性酸化ストレスモデルマウスである a-TTP ノックアウトマウスを用いて、2006年にアルツハイマー病モデル・マウスの症状が酸化ストレスにより増悪すること(Nishida et al, BBRC 2006)、2009年にはその増悪する機序がアミロイドβ蛋白の脳内からのクリアランス低下によることを報告しました(Nishida et al, JBC 2009)。さらにマイクロアレイ解析などダイナミックに進化し続ける遺伝子や蛋白の網羅的な解析技術を駆使し、老化や酸化ストレスに着目したアルツハイマー病の病態メカニズムに関与する新役者として、Phospholipase A2 group 3 (Pla2g3)を発見しました。Pla2g3が増加することによりアミロイドβ分解酵素であるIDEが減ることを報告しました(Yui et al, PLoS One 2015)。
以上のように社会からの要望に応えるべく、我々は新たなアルツハイマー病の治療法開発に向けて基礎研究に励んでいます。

(5) 筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因究明と治療法開発研究
1.ALS病変の進展形式 multifocal hits and local propagation hypothesis
 代表的な神経変性疾患であるアルツハイマー病やパーキンソン病では、プリオン病のように疾患に関連するタンパク(タウやαシヌクレイン)がある一定のパターンをもって隣接した領域へ広がっていくことが報告されています。我々はALS患者を対象に経時的な電気生理学的検査を行い、ALSにおける病変の進展形式を評価し、その特徴を考察しました。その結果、ALSにおいては、隣接した領域への単純な進展(single seed and simple propagation hypothesis)のみでなく、遠隔領域への非連続的な進展(multifocal hits and local propagation hypothesis)を示す患者群が存在することが明らかになりました(Sekiguchi T. et al. J Neurol Neurosurg Psychiatry 2013)。
 ALSにおける特徴的な病変の進展を担う因子として、我々は細胞外小胞(Extracellular vesicles: EVs、特にexosome)という微小胞に着目して研究を行っています。Exosomeは細胞表面から放出される微小胞であり、その内部にはタンパクだけでなく脂質、microRNAやmRNAなどの核酸が存在することが分かっており、細胞間の情報伝達や不要物の排泄を担っていると考えられています。我々はこのEVの中にTDP-43断片が含まれていることを培養細胞レベルで証明しました。また培養細胞から回収したEVをマウス大脳に接種すると、EV内に存在するTDP-43は神経細胞に取り込まれるだけでなく、神経回路に沿って別の部位へ伝播されることが判明しました。この研究によりALSの疾患進行の機序が明らかになれば、ALSひいてはその他の神経変性疾患の進行を抑制する新たな治療方法の開発が可能となると我々は考えています。

2.ALSの治療法開発 
 ALSの原因遺伝子の一つであるTDP-43を過剰に発現させると細胞質内に異常な凝集体が形成され、ショウジョウバエでは複眼変性を引き起こします。このモデルに、TDP-43に結合するRNAを共発現させると複眼変性が改善されたことから、正常な神経細胞の維持には、RNAとRNA結合タンパク質であるTDP-43のバランスが重要であり、この破綻がALSを引き起こしている可能性を見出しました(Ishiguro T et al. Neuron 2017)。このバランスの不均衡を是正する新規治療薬の開発を目指しています。さらもこの知見からTDP-43に結合する bait アンチセンス核酸を創生して、ALSのモデルマウスの治療実験を行っています。

(6) 脳血管障害
1. 臨床研究
急性期脳梗塞を対象に、連携病院の協力のもと画像解析、臨床スコアの開発などを行っています。特に、ESUS(Embolic Stroke of Undetermined Source; 塞栓源不明の脳梗塞)における心房細動検出手段の開発 (Yoshioka K, et al. JSCVD 24; 2263-9, 2015)、及び、脳梗塞での側副血行路の画像サインや関連する因子の解析 (Ichijo M, et al. Stroke. 44: 512-5, 2013、Yoshioka K, et al. Neuroradiology 55:165-9, 2013、Ichijo M, et al. AJNR. 36; 1839-45, 2015 など)を行い、より良い急性期脳梗塞治療の開発を目指しています。最近では、血圧の管理によって脳梗塞発症時の側副血行路の発達が良好になることも発見しました (Fujita K, et al. Stroke 50: 1751-57, 2019)。
これらの臨床研究で得られた新たな知見を、当院血管内治療科と共同で行なっている脳梗塞の急性期血行再建手術時の側副血行路評価などにも応用することによって、脳梗塞の最適な血行動態制御を目指しています。

2.基礎研究
日本で最も受療率が高く寝たきりの最大の原因となっている脳血管疾患の根本的な治療法開発に取り組んでいます。主に脳梗塞モデルマウス及び、細胞脳虚血モデルを使って臨床応用へむけた新たな治療法を開発しています。
a. 虚血用ライガンド結合型ヘテロ核酸を用いた脳保護療法の開発
急性期脳梗塞において、ペナンブラ領域の細胞死の病態は大分解明されつつありますが、臨床的に病態制御効果を証明出来た治療法はありません。急性期脳梗塞では脳血管関門の破綻が生じるのは発症24時間以降で、病態制御が大きな効果を発揮すると期待される超急性期(発症24時間以内)には、薬剤が虚血脳に到達しないことが大きな問題と考えられます。我々は、抜群の遺伝子抑制効果を持つヘテロ核酸に脳梗塞超急性期であっても脳内に到達することの出来るライガンドを結合することで、虚血部位選択的に超急性期の病態を制御することに成功しました。
現在、虚血用ライガンド結合型ヘテロ核酸を用いて、脳梗塞の新規治療の開発を行なっています。

b. 神経及び血管再生治療の開発
神経幹細胞、間葉系幹細胞を障害された脳を蘇らせる有用なリソースとして考えて、これらの細胞の移植あるいは、Galectin-1などの幹細胞制御因子の投与により脳梗塞による神経症状の改善効果があることを見出してきました。
一方で、それらの細胞の生存に必須な脳血流を維持すること、あるいは臨床的に見出した側副血行路による脳保護効果を人為的に発揮させるための手段の開発として、軟膜動脈による側副血行路発達を目指した研究を行っています。我々は、S1PR1(Sphingosine 1-phosphate receptor 1)シグナルに注目しています。この受容体関連シグナルを制御することにより、側副血行路の発達を促すことが出来ることを見出しました。

(7) 脊髄小脳変性症の分子遺伝学的方法による病態解明、及び治療法開発
1.脊髄小脳変性症の病態解明と治療法開発のための研究
 当研究グループは1997年4月に発足し、α1A-カルシウムチャネル遺伝子の3塩(CAG)繰り返し配列の異常伸長で起きるSCA6と、非コード型5塩基繰り返し配列が2方向に転写されて起きるSCA31という2つの疾患について研究をしてきました。 SCA6については、遺伝子座解明と臨床症状と遺伝子変異との関係(Ishikawa et al. AJHG, 1997; Takahashi H. et al. J Hum Genet, 2003)、患者脳内でカルシウムチャネルが凝集することの世界的発見(Ishikawa K. et al. Hum Mol Genet, 1999; Ishikawa K. et al. Neurology, 2001; Ishiguro T. et al. Acta Neuropathol, 2010)などを行い、脳統合機能研究センター渡瀬啓准教授と共同して動物モデル作製・解析にも貢献しました (Watase K. et al. PNAS, 2008; Unno T. et al. PNAS, 2012)。現在でも患者脳で蛋白凝集が起こす病態の研究を継続しており(Takahashi M et al, 2013, PLoS One)、世界中からSCA6の標本を受け入れて独自の特異抗体で免疫染色を行っております。 SCA31については、2000年に原因遺伝子座を発見し (Nagaoka U, et al. Neurology, 2000)、ヒトゲノムがまだ未解読の時代に独自で物理地図絞り込みを行い (Li M, et al. J Hum Genet, 2003),候補遺伝子puratrophin-1の発見と創始者ハプロタイプの解明 (Ishikawa K & Toru S et al. AJHG, 2005; Amino T et al. J Hum Genet, 2007)を経て、遂に2009年に原因が2つの遺伝子BEANとTK2の共有するイントロン内に存在する5塩基繰り返し配列であることを突き止めることができました (Sato N & Amino T et al, AJHG, 2009)。その成果はNHKニュース「おはよう日本」でも報道されました。SCA31の病態は、SCA6と異なり非コード型RNAリピートの存在が重要です。患者脳ではRNAの異常凝集が見えます。なぜこのような凝集体が形成され、それがどのような意味を持つのか、異常RNAの配列やRNAに結合する蛋白の解明などについてモデルマウスやモデル培養細胞を用いて研究し、培養細胞でもRNAの高次構造異常が確認され、それが細胞寿命に影響することも報告しました(Niimi Y. et al., Neuropathology,2013)。ショウジョウバエモデルではALSに深く関係する蛋白TDP43がSCA31の遺伝子毒性を緩和することを発見し(Ishiguro T et al. Neuron 2017)、患者で類似の病態が起きているかを今後検証する計画です。
共同研究の体制は、国内だけでなく、海外(アメリカ、ドイツ、フランス、カナダなど)の一流研究者とも盛んに行っております。さらに当分野が開発したヘテロ核酸を含む核酸医薬による治療開発もAMEDの支援を受けて大手製薬企業と取り組んでいます。今後も私たちはこれらの疾患の根本的な治療法開発を目指して研究を進めたいと思っております。

2.臨床試験
 2015年度より多系統萎縮症についての多施設共同研究を行っています。そのほか、脊髄小脳変性症の一部についての臨床試験の計画もございます。詳細は、本学医学部付属病院臨床試験センターホームページで公開しております。

3.バイオインフォマティクスを活用した分子遺伝学的な病態研究
 現代は、情報過多とも言えるデータベースなどの充実とともに、情報科学的な病態研究の方法が分子生物学のデータ解釈におけるあらゆる局面において重要性を増してきております。まだこれ単独では具体的な業績につながっておりませんが今後も継続して注力していきます。

(8) 血液脳関門の機能制御を目指した研究
多くの中枢神経疾患の治療を困難にしている大きな原因の1つとして、血液から脳への物質輸送を厳密に制御する生体内バリア機構としての血液脳関門(blood brain barrier:BBB)の存在があげられます。BBBでは脳微小血管内皮細胞がバリア機能の中核を成し、脳の活動に必須な栄養成分を選択的に輸送する一方で、多くの薬剤の脳への送達を著しく制限しています。
我々は、脳の主要なエネルギー源であるグルコースの、脳微小血管内皮細胞におけるグルコーストランスポーター1(glucose transporter-1:GLUT1)を介した生理学的な輸送経路を活用し、血液脳関門を効率的に通過する薬剤送達技術を開発しました(Anraku Y, Kuwahara H, et al. Nat Commun 2017)。本技術は、生体側のコンディショニングとしての血中グルコース濃度の変化に応答して、静脈内投与したグルコース修飾ナノ粒子が脳微小血管内皮細胞の内部を通過するもので、既存の技術と比較して桁違いに高い効率での脳内への集積を実現します。本技術を基に、大学発バイオベンチャー「株式会社Braizon Therapeutics」が設立され、抗体医薬や核酸医薬などの様々な中~高分子薬剤を脳へと送達する基盤技術としての発展に向けて、研究開発を進めています。
また、脳微小血管内皮細胞の間隙を通過する新規の薬剤送達技術も開発しました(Zeniya S, Kuwahara H, et al. J Control Release 2018)。血液脳関門のバリア機能に大きく寄与するタイトジャンクションの中でも、最近になってその特性が分かり始めてきた三細胞間のタイトジャンクションを調整することで、静脈内投与したアンチセンス核酸が血液脳関門を通過して中枢神経系に到達し、標的RNAの発現抑制をもたらすことを実証しました。
他方、BBBは、多発性硬化症、アルツハイマー病、脳梗塞といった様々な疾患において、病態形成に関わる多くの分子を発現していることから、BBBの機能を制御する技術は、これらの疾患の新しい治療法や病態解明のツールとして大きく展開する可能性を秘めています。
我々は、siRNA(small interfering RNA)を静脈内投与してBBBに送達し、標的遺伝子の発現を制御する研究において、世界で先駆的な成果を遂げました(Kuwahara H, et al. Mol Ther 2011)。その後、我々が独自に開発したヘテロ核酸の静脈内投与にて、BBBにおけるさらに効率的かつ安全な標的遺伝子の発現制御を実現しました(Kuwahara H, Song J, Shimoura T, et al. Sci Rep. 2018)。本研究においては、標的遺伝子の産物としての蛋白の発現量低下および機能低下をもたらすことにも成功しました。
BBBの通過技術および制御技術のいずれについても、今後は各種の神経疾患のモデル動物での治療効果を検証し、難治性の様々な中枢神経疾患に対する臨床応用へと発展させることを視野に入れています。

(9) 神経生理学的な臨床研究
 小脳は、バランスを取る機能だけでなく、「体で覚える」ことや「体が記憶する」ことを可能にしている脳です。たとえば、昔乗れた自転車に、何十年経っても体が覚えている、というのも小脳が関わっていると言われています。そのため、どんな人にも小脳の働きが必須です。
私達は、このような「秘められた脳機能」の一つである小脳の運動学習機能(別名:適応機能)を正確に定量的に評価できる装置を、理研脳科学(BSI)と共同開発しました(特許出願済;文部科学省受託研究 脳科学研究戦略推進プログラム(課題E))。
この研究成果はPLoS ONE誌より2015年3月に公開されました(Hashimoto Y. & Honda T. et al. PLoS ONE, 2015)。 この機器を用いて、小脳のどの部分で学習しているのかを明らかにし、例えば薬でどのように改善するかを明らかにしたいと考えています。

(10) 脱髄性中枢神経疾患における神経変性プロセスの解析
多発性硬化症(Multiple sclerosis, MS)や視神経脊髄炎(Neuromyelitis Optica Spectrum Disorders, NMOSD)における脳萎縮に関して、脳の萎縮、記憶力障害、注意障害などを、日本人の患者さんにおいて評価し、関連性を調べています。
近年、MS/NMOSD分野では次々に新薬が開発、発売され、no evidence of disease activity-3(NEDA-3; 再発なし、MRI活動なし、障害進行なし)とよばれる状態をゴールとして治療を行うことが提唱されています。しかしながら、これらを満たしていても脳萎縮が進行しうることが知られてきています。我々は、日本人患者さんにおいてもNEDA-3を満たしていても脳萎縮がみられることが高率にあることを日本人のデータとしてはじめて示しました(Yokote et al, 2018)。また、脳萎縮を予測するバイオマーカーとしては血液中ニューロフィラメント軽鎖(neurofilament light)が有望ですが、神経細胞の破壊があれば他の神経変性疾患でも上昇がみられ疾患特異性が低いことが問題です。我々は、免疫調整能をもつレチノールに注目し、血液中レチノール濃度(レチノール結合蛋白で代用)が低いほど年間脳萎縮率が高くなることを示しました (Yokote et al. 2017)。 
さらに、最近ではMSにおける脳萎縮の病態の根底にある“inflammation”に注目し様々なサイトカインやケモカイン、リンパ球サブタイプとの関連を調べています。

他施設とも共同研究を進めており、脳細胞の変性を写すことのできる脳MRI撮影や、脳脊髄液や血液中のバイオマーカーを測定・解析することにより、脳萎縮のリスク因子の解析を行っています。また、多発性硬化症の患者さんにおける簡易型認知機能評価であるBrief International Cognitive Assessment for MS (BICAMS)の日本語版のバリデーションに協力しています(Niinoら, 2017)。

(11) 神経病理
病理部門では大きく2つの役割を担っています。1つは臨床診断で、当研究室では大学病院をはじめ、関連施設から年間100~150例の末梢神経・筋生検組織が届けられ、標本作製から診断までという大変重要な部分を行っています。もう1つは実験病理や剖検脳の検討で、難治性疾患の多い神経疾患の病態を解明し、新たな治療法開発を目指しています。
アルツハイマー病のタウやパーキンソン病のαシヌクレイン等の疾患関連蛋白が神経細胞体内に凝集物を作り、神経細胞死を起こすという Proteinopathyパラダイムは神経変性疾患の分子病態の理解を深めてきました。我々は凝集体形成や細胞死が起こる前に樹状突起や軸索に病変や機能障害が起こることを明らかにしています。細胞死に先行する突起病変に注目するこの「神経突起病理学」は突起病変に関連する疾患特異的な早期症状に基づく、特異度の高い診断に結びつき、細胞死が起こる前の治療介入へと道を拓く新たな視点を提供します。
このページの先頭へ▲

教育活動

前期臨床トレーニング
初期臨床研修 (1,2年目)
研修医として医学部附属病院の卒後臨床研修センターに所属し、センターのプログラムに則って、連携病院および関連する研修指定病院で内科、脳神経内科および他科の研修を行う。
詳しくは卒後臨床研修センタ-のホームページ参照。
シニア・レジデント(3,4年目)
初期研修終了後、医学部附属病院ないし連携病院の脳神経内科に所属し、臨床神経学を中心に電気生理学、神経病理学、神経放射線を含めた、より専門的な研修を行う。医学部附属病院では、病棟担当教員、チーフ・レジデントの下、1~2名の研修医(ジュニア・レジデント)とチームを組み、彼らを指導するとともに、自らも何人かの患者を受け持ち研修する。また数ヶ月単位で神経生理、神経病理、神経放射線などの専任研修を行う。
他科、他院での初期研修後の入局も可能であり、随時相談に応じている。
シニア・レジデントの期間中からその後にかけて大学院に入学する道もある。

初期研修プログラム
a. 診療科の特徴
 基準病床数32床と内科系で最大規模の診療科。その対象となる疾患も脳神経内科に特有な神経変性疾患、脱髄疾患、てんかんや片頭痛などの発作性・機能性疾患をはじめ、単一臓器としては死因第一位の脳血管障害、感染症、腫瘍、自己免疫性・傍腫瘍性疾患、脊椎疾患や内科疾患に伴う神経障害、代謝性疾患、栄養障害、中毒、自律神経疾患、人体において最大の”臓器”である骨格筋の疾患など極めて多彩であることが特徴として挙げられる。
b. プログラムの特徴
 研修医(ジュニア・レジデント)は、卒後3年目以降のシニア・レジデントクラスの脳神経内科医と共に5~7人程度の入院患者を受け持ち、患者さんやコ・メディカル・スタッフ、同僚とのコミュニケーションなど医師としての基本能力を高めるとともに、神経疾患の基本的な診察、診断、治療・ケアなどについて研修する。シニア・レジデントは神経生理、神経放射線、神経病理などの専任研修を各2-3ヶ月ローテーションする。卒後5年目以降のチーフ・レジデントおよび病棟教官がこれをサポートするとともに、より専門的な意見や最新の知見等につきアドバイスし、症例に対するより深い考察と理解を助ける。神経生理、神経病理、神経放射線のカンファレンスが定期的に行われており、脳神経内科に特有の検査について詳しく学ぶ機会が得られる。症例から得られた貴重な知見に関しては、研修医にも積極的に学会、論文等による発表を行う。
c. 研修内容及び到達目標
 医療面接を含めた神経学的診察がきちんとできることを第一目標とする。そこから問題点を抽出、整理し、どこがどのように悪いのか考える力を身につける。画像や電気生理検査、病理検査など諸検査の意味をよく理解し、これらを総合した診断へのプロセスを学ぶ。各症候、疾患の特徴を理解し、基本的な治療法について習得する。脳神経内科は脳卒中をはじめとする救急疾患も多いため、救急に関する知識、技術の習得も可能である。疾患に関しては、脳卒中や頭痛などのcommon diseaseのみならず、神経変性疾患や免疫性神経疾患をはじめとする脳神経内科特有の神経難病、内科疾患に伴う神経障害なども経験できるようにプログラムされている。
d. 研修医に対する要望
 単に知識や技術の習得に止まらず、常になぜかを問いかけ、論理的かつ真摯に考察し、自ら問題を発見し解決していく積極的な姿勢を望む。

後期臨床トレーニング (5年目以降)
医学部附属病院でチーフ・レジデントとして脳神経内科病棟の全入院患者を把握して、全レジデントを統括・指導したり、連携病院の脳神経内科責任者として診療に当たり、さらに臨床能力を飛躍させつつ、臨床研究を行う。
最短5年間の研修後に日本神経学会認定の脳神経内科専門医資格を取得する。

大学院について
教育目標 21世紀の神経学と神経科学を担う研究者、脳神経内科医、教育者を養成する。
教育方針 臨床神経学の教室として、神経疾患の病態の解明・診断法や治療法の開発に関する研究テーマを中心とする。臨床的発想を中心にすえた上で、分子からシステムまでをターゲットに分子遺伝学や分子・細胞生物学、あるいはPET, fMRI, MEGなどの最新の手法を駆使した研究を展開できるようにする。
研究テーマ 本人の希望により主任教授と話し合って決定される。
当教室での主な研究内容に関しては研究のページを参照。
募集概要 学年若干名(今までの実績では2-8名)を大学院生として採用する。
一般内科および脳神経内科の前期研修を終えた卒後4-5年目で入学するのを標準とするが、医学部卒業直後あるいは初期研修修了直後の早期の大学院入学も可能である。
医学部以外の大学卒業者や留学生の受験も可能。
このページの先頭へ▲

教育方針

上記の教育活動欄を参照。






このページの先頭へ▲