概要 研究活動 教育活動 教育方針 臨床活動および学外活動 臨床上の特色
ホームページ http://www.tmd.ac.jp/grad/ompm/ompm-J.htm

スタッフ

職名 氏名(カナ) 研究者情報
教授 豊福 明(トヨフク アキラ)
講師 渡邉 素子(ワタナベ モトコ)
助教 木村 康之(キムラ ヤスユキ)
大学院生 渡邊 一也(ワタナベ カズヤ)
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概要

 当分野は、歯科口腔領域の慢性疼痛や咬合の異常感、味覚障害や口腔内の多彩な異常感など種々の原因不明の症状が長期的に持続する、いわゆる「歯科心身症」の診断・治療法の開発・改良および病態の解明を目指す。わが国では唯一の歯科心身医学を専門とする講座として、再診の知見を探究しながら、日々よりよい歯科心身医療の提供と、そのための研究・教育を行っている。
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研究活動

 歯科領域における“medically unexplained oral symptoms”。これが当分野が真に対象とする病態である。歯科治療を契機に慢性疼痛や咬合の異常感、味覚障害や口腔内の異常感など様々な原因不明の症状が出現し、苦しんでいる患者が大勢いる。このような患者は、歯科に行けば「心療内科へ行け」と一蹴され、心療内科や精神科では「歯の事は分からない」と匙を投げられ、医療難民化しているのが現状である。当分野では、このような「医療の隙間」に陥ってしまい、「どこへ行ったら良いのか分からなくなった」患者の病態解明と、より効果的で効率的な治療法の開発を目指している。
 当分野では「中枢からみた歯科学」をテーマに、「歯科心身症の治療技法の開発・改良および本症の病態解明」を目指し、臨床と直結した研究を志向している。日々の診療の中で試行錯誤を繰り返しながら、病態の本質に迫るような治療技法の工夫を続け、そこから得られた知見を元に本症の病態解明に取り組んでいる。
 本症の病態に脳内神経回路の構造やそれらの接続パターンの関与していることは間違いないと思われる。ところが酷似しているようで本症の症状には微妙なバリエーションがあり、薬剤の反応性、忍容性、副作用の出現にも個人差が大きいことがわかってきた。症状と責任病巣が必ずしも1対1対応ではなく、脳内のニューロンの異なる別個の活動状態が、主観的には判別不能であるため酷似した訴えとして表出されるのかもしれない。臨床の段階でこのような個人差を可及的に減らしてから脳機能画像研究に結び付けられるよう、臨床的評価の工夫を重ねている。
 豊富な症例数を活かし、歯科心身症と精神疾患・内科疾患とのcomorbidity に関する疫学的研究を継続している。本年は特に咬合の愁訴で難渋させられるPBSの脳機能画像解析や非定型歯痛の治療転帰を検討し、Oral DisやJ Pain Resなどに掲載されている。DPAやNaSSAなど新規向精神薬の歯科領域への応用なども積極的に行い、多数例の治療成績を解析し、より良い治療を検討している。さらに医療コストも勘案し、古い薬の限界を知悉した上で新規開発薬とのより効果的な併用療法の開発も視野に入れている。まずは各歯科心身症の病態の詳細を調べ、三環系抗うつ薬のより安全でより効果的な使い方の発見を試みている。特に高齢者に対する薬物療法のデータをNeuropsychiatr Dis Treat, Front Chron Painなどに報告した。脳機能画像研究も少しずつ軌道に乗り始め、口腔内セネストパチーやPhantom bite syndromeを題材にした、本学医学部精神科ならびに放射線科と共同研究の成果が、Eur Arch Psychiatry Clin NeurosciやBMC Psychiatryなどに掲載されている。また北海道医療大学と共同で、認知行動療法に関する実践的研究や歯科心身症の心理社会的側面からの解析も継続している。
 歯科心身症は、器質的な所見に乏しく、主観的な訴えが前面に表出されるという特性から、現時点では病態は不明な点が多く動物実験による検証が困難である。しかし、実は末梢神経レベルの病態も未だ不明な点が多い。院生が日大歯学部口腔生理学教室とミネソタ大学に留学し、帰国後も日本大学や大阪大学との共同研究を継続するなど、これまで“心因性”と看做されがちであった三叉神経領域の慢性疼痛の生物学的基盤を神経グリア連関の視点から見直すことも試みている。これらの基礎研究の成果が、臨床では三叉神経のNeurovascular Compressionと関連づけられないかと、本学口腔放射線医学分野と共同研究を開始し、Pain Med, Front Neurolなどに成果発表している。
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教育活動

 従来、歯科における心身医学の卒前教育の重要性が強調されてきた。しかし、全国的にも精々わずかな座学のみの大学がほとんどで、とても十分とは言えないのが現状である。精神医学や内科領域の心身医学の単なる抜粋ではなく、歯科特有の心身医学の体系が求められている。
 当分野では学部学生の教育においては、講義や本でかじった生半可な知識だけではなく、実体験を通じて本症を肌で感じ取ってもらうことに主眼を置いている。早期体験実習で実際の診療場面を見学させ、6年生の包括臨床実習では、外来新患の予診を担当し、教授診察の場でプレゼンテーションを課している。生の患者を眼前にし、当人から直接話を聞くことで、歯科医師が担当すべき歯科心身症患者が実在すること、治療可能な疾患であること、安易に「心因性」「治らない」などと片付けることの弊害、患者や家族の深刻な苦痛などに理解を深めさせている。また精神科に紹介すべき疾患の鑑別もできるようにPsychiatry In Primary Care(PIPC)を導入し、実践的な指導を心掛けている。
 ローテートしてきた臨床研修歯科医師には、治療過程まで含めもう一歩踏み込んだ指導を行った。地道な取り組みではあるが、将来的には歯科心身医学の素養を備えた本学卒業生が「こころも診れる歯科医師」に育っていくことで、本症の受療可能性の均てん化、難症例の対応能力の向上、ひいては歯科医療トラブルの減少が期待される。
 歯科心身医学に、歯科医師としてのアイデンティティは重要である。しっかりした歯科医師としての考え方、知識、技術に基づき、なおかつ技術偏重に陥らずに「病める人」として患者を深く理解できる歯科医師の育成を目指している。一方、他科医師との連携を通じて、関連科の発想や技術も取り入れられる点を参考にするように指導している。
 大学院教育においても、臨床における実践を重視し、歯科心身症を専門的に診れる歯科医師の育成とともに臨床現場で生まれた問題提起をテーマに研究指導している。初発の関心をいかにして研究可能な問いに変換していけるか、「問いの立て方と展開」の仕方を個別に指導している。患者データを用いた臨床的研究を中心に展開し、考える材料として週2回の英文抄読会の他にも外部講師を招いての勉強会を重ねている。論文を鵜呑みにするのではなく、臨床での現実と対比する習慣を涵養し、講読した論文への疑問や意見はletter to editorとして投稿することも推奨している。
 患者数の多さに流されず、毎日夕方の新患カンファレンスを英語で行ない、年々増加する高齢者多疾患併存にも対応すべく医歯連携の緊密化と慎重かつ緻密な症例検討を日々積み重ねている。1例1例を注意深く観察し、豊かな語彙で適確に描写できることを目指し、カルテ記載や紹介状・返書の書き方にも工夫を求めている。英語論文だけでなく、きちんとした和文も書けるように、症例報告も積極的に論文化するよう指導している。
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教育方針

 大学院教育においては、臨床における実践を重視し、歯科心身症をきちんと診れる歯科医師の育成とともに臨床現場で生まれた問題提起をテーマに研究指導を行っている。新入生に対して、まずは当科外来にて実際に患者の診療を体験し、歯科心身症とはどのようなものかを肌で体得させている。「良い臨床から良い研究が生まれる」をモットーに、診療室で自分の目で見た現象を素材に、歯科臨床で有用性の高い臨床研究を志向している。臨床の場から自らが興味を持った課題を抽出させ、「どのように問いを立てるか」「どのように問いを展開していくか」など研究テーマを話し合って決めていくこととしている。
 基礎研究を志向する者には、有力な生理学研究室へ指導委託を行い、最新の知見をフィードバックしてもらうようにしている。また、大学院特論の他、外部講師による特別講義なども企画を工夫し、臨床現場を重視しながらも最先端の脳科学に触れ、自由闊達な発想を育む機会を作っている。海外も含め各種学会へも積極的に発表を促したり、各種研修会などで見聞を広めたりするよう指導している。
 大学院卒業後は、学会認定医取得とアカデミックポジションの獲得にむけて手厚くサポートしている。
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臨床活動および学外活動

 東京医科歯科大学歯学部附属病院の「歯科心身医療外来」にて、歯科心身症(Medically Unexplained Oral Symptom/Syndrome)の専門的診断・治療を担当している。舌痛症、非定型顔面痛(非定型歯痛)、口腔異常感症(口腔セネストパチーを含む)、顎関節症(咬合異常感・Phantom Bite Syndrome)など歯科特有の患者群に力を入れている。特に歯列矯正治療や義歯関連の不定愁訴は歯科特有の問題と捉え、近年大きな問題となってきたインプラント関連症例にも最善を尽くしている。
 治療はTCA、SSRI、SNRI、NaSSAやDPAなどによる薬物療法に、適切な生活指導(生活リズムの適正化や症状への対処法など)を組み合わせたり、必要に応じて各種心理療法を適用するなどして口腔症状の改善を図っている。難治例も増加傾向にあるが、1例1例を大事にし、約70%の患者で比較的良好な経過が得られている。近年は医療経済学的な面も考慮し、古い薬でも上手に工夫して満足な治療効果を得られないか、特に高齢で多疾患併存の患者により安全で効果的な治療ができないかという試みも始めている。
 やはり歯科医師が担当すべき「歯科心身症」という守備範囲が存在する。歯科を受診してきても精神科・心療内科で治療すべき患者は鑑別し、適切な治療ルートに導くようにしている。なお精神疾患に継発する口腔症状Functional somatic symptoms secondary to psychiatry disordersに関して精神科より依頼があれば、同科主治医と協力してその解決に努力するというスタンスをとっている。本学のメンタルヘルス・リエゾンセンターの開設により、さらに医歯連携が密になっている。特に口腔セネストパチーに関しては、本学医学部精神神経科と連携を深め、難治性病態に対するより良い治療法の開発と病態解明を目指している。
 当科外来では年間約5−600名の新患を受け入れているが、再来患者が10000名を越すこともありマンパワー不足や外来の狭隘が顕著となった。病院機能維持のため、やむを得ず完全紹介・予約制とさせて頂いている。決して多くはないが、必要に応じて入院治療にも対応できる体勢を構築している。首都圏はもちろん中部・関西、果ては北海道や九州といった遠方からもご紹介頂いている。本学医学部附属病院はもとより他の大学病院や基幹病院の精神科からの紹介も増え、症状が安定すれば逆紹介を促進し医療連携を深めている。
 歯科心身症は各科の専門医が集まり、それぞれの担当部分を分担治療すれば制圧できるという疾患ではない。中枢を巻き込んだ歯科的症状、いわばこころと歯が複雑に絡み合った病態に対応しうる総合的歯科医療の実践を目指している。
 既存の保険診療の枠決めに安住せず、患者から学ぶ姿勢を保ちつつ先駆的な治療を取り入れる努力を続けている。昨今急増している高齢者多疾患併存に対応した精度の高い診断と安全かつ効率的な心身医療を心がけ、より多くのニーズに応えるべく医療連携の推進と共に、医療経済面も考慮した、さらなる治療成績と治療効率の向上が課題である。
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臨床上の特色

 本学歯学部附属病院「歯科心身医療外来」は、歯科心身症に特化した、わが国では数少ない専門外来である。症例数の豊富さのみならず、対話を大切にした診療を心がけ、歯科的見識のもと1人1人の患者に丁寧に寄り添うことをモットーにし、高齢者多疾患併存に対応した精度の高い診断と安全かつ効率的な心身医療を心がけ、良好な治療成績を上げている。
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