概要 研究活動 教育活動 臨床活動および学外活動 臨床上の特色
ホームページ https://www.tmd.ac.jp/endo/

スタッフ

職名 氏名(カナ) 研究者情報
教授 興地 隆史(オキヂ タカシ)
教授 木村 俊介(キムラ シュンスケ)
准教授 川島 伸之(カワシマ ノブユキ)
講師 渡邉 聡(ワタナベ サトシ)
講師 海老原 新(エビハラ アラタ)
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概要

 歯髄生物学分野は,歯髄および根尖歯周組織の疾患の予防,診断ならびに治療を考究する歯内療法学を専攻する分野である.歯髄は周囲を硬組織に囲まれた特殊な環境下に置かれている.歯を保存し,口腔内で十分に機能させるためには,歯髄の構造的・機能的特徴をよく理解し,歯髄の保護に努める必要がある.他方,歯髄疾患を放置すれば,やがて歯髄死を招き根尖歯周組織疾患を生ずるに至るが,その治療に際しては,複雑な根管系における細菌感染の入念な排除が必要となる.歯内療法学は,歯髄疾患や根尖性歯周疾患の予防や治療により,歯を保存し永くその機能を営ませることを目的としている.
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研究活動

1.象牙質/歯髄複合体のバイオロジーと歯髄組織の再生
歯髄炎におけるmicroRNAの役割と炎症制御 近年,各種microRNA が様々な生体反応において重要な役割を担っていると報告されている.そこで,我々は予備実験によりmicroRNAの一つであるmi iR-146b-5pが LPS刺激したヒト歯髄細胞において発現が増加することを見出し,歯髄炎発症過程における miR-146b-5pの役割について評価した.miR-146b-5pはLPS刺激ヒト歯髄細胞において,LPS刺激に伴い産生されるIL-6により活性化されるJAK/STATシグナルを介して産生が誘導されることが明らかになった. miR-146b-5p はLPS刺激で活性化されるNFkBシグナルシグナルを介する炎症性メディエーター発現を抑制するが,その時 TRAF6, IRAK1, RELAをターゲットとすることが明らかになった.特に,RELAの3’UTRに miR-146b-5pの結合配列が存在することを今回初めて明らかにした. miR-146b-5pはラット実験的歯髄炎においても発現の増加が確認され,LPS刺激ラット切歯歯髄組織においても miR-146b-5pは炎症性メディエーター発現を抑制した.以上の結果は, miR-146b-5pが歯髄炎の進展において,その炎症反応の進行を抑制するメカニズムの一つとして機能している可能性が示唆された.さらにmiR-27aも同様にLPS刺激ヒト歯髄細胞において発現が増加 することを見出し,その機能について解析を行っている.
2.歯科用レーザーを用いた根管洗浄の安全性および清掃性に関する検討  
歯内療法における新たな根管洗浄法として,歯科用 Er:YAG レーザー照射装置を用いた LAI (laser-activated irrigation) の臨床応用が期待されている.そこで,LAI でのキャビテーション挙動,根尖孔外への溢出リスク,お よび複雑な根管形態への洗浄効果を解析した.その結果,LAI は超音波洗浄法等と比較して,照射チップ先端か ら遠位に位置する模擬根管側枝内の水酸化カルシウム除去効率に優れることが判明した.また,LAI の水酸化カ ルシウム除去能は照射エネルギーやチップの先端径の増加によって有意に増加した.さらにレーザー照射条件が,根管内蒸気泡の挙動および根尖孔外に生じる圧力に及ぼす影響を解析したところ,蒸気泡数と最大径は,照射エ ネルギー,繰り返しパルス数,チップ径増加により有意に増加した.蒸気泡速度は繰り返しパルス数の増加に伴い上昇したが,照射エネルギーとチップ径による有意差を認めなかった.根尖孔外に生じた圧力は,上記全ての照射条件の増加で有意に増加した.またレッジや破折ファイル片を有する根管形態に対するLAIの挙動を評価したところ,レッジや破折ファイル片を越えた根尖部においても洗浄効果を認め,超音波洗浄と比較して有意に高い洗浄液の活性化挙動を示していた.
3.バイオアクティブな歯内療法材料の特性評価と新規材料の開発
3-1 水硬性ケイ酸カルシウム系シーラーの特性 水硬性ケイ酸カルシウム系シーラーであるBio-C sealer(BioC), Well-Root ST(WST)および EndoSequence BC sealer(BC)が,骨芽細胞の分化/石灰化とマクロファージからの炎症性サイトカイン産生に与える影響について検討した.BioC,WSTおよびBC抽出液は,Kusa-A1 細胞におけるオステオカルシンおよびオステオポンチンのmRNA 発現および石灰化結節形成を有意に促進した.また BioC,WST,BCは,RAW264.7細胞においてインターロイキン(IL)-1 α,IL-1 β,IL-6,腫瘍壊死因子(TNF)-αのmRNA 発現,IL-6 および TNF-αの口腔機能再構築学講座 タンパク質レベルを有意に低下させた.BioC,WST,BCは生体適合性が高く,骨芽細胞分化/石灰化を促進し,炎症性サイトカイン発現を抑制することが明らかになった.また,これらのシーラーから放出される Ca2+が骨芽細胞分化/石灰化の誘導に関与する可能性が示された.
3-2 新規水硬性歯内療法用セメントとしてのセリウム酸二ストロンチウムおよびアルミン酸ストロンチウム セリウム酸二ストロンチウム (S2Ce) およびアルミン酸ストロンチウム(S3A)を新たに合成し, その硬化時間, 圧縮強度, 相対流動性, X 線造影性を評価した. S2Ce および S3Aの硬化時間は 121および 91分で, 市販 MTAセメントより早い硬化を示した. 練和1日後の S2Ceの圧縮強さは混水比0.4において最大 72.1 MPaと市販MTAより高い値を示したが, 28日後には混水比0.30~0.40で有意に圧縮強さが低下した. S3Aの圧縮強さは練和1日後で10MPa, 28日後で13MPaだった. 溶出特性では両者とも浸漬1日後からSr溶出が認められた. S2CeのX線造影性は市販MTAの約3倍, S3AはMTAとほぼ同等のX 線造影性を示した.
3-3 ポルトランドセメントを主成分とするMineral Trioxide Aggregate (MTA) セメントは優れた封鎖性や生体親和性から直接覆髄などの処置において使用されている.MTAセメントに限らずケイ酸カルシウムを主成分とするポルトランドセメントは硬化中の冠水により硬化が阻害されるという欠点があり,水中で硬化させる場合には増粘剤などの添加が必要である.実際,MTAセメントは充填直後に血液等の体液に接触すると,セメントの硬化阻害が起こることが報告されている.今回,建築分野のセメントの増粘剤として近年注目されているセルロースナノファイバー(CNFs)の添加によるMTAセメント硬化体の機械的特性について検討した.その結果,CNFs添加がNEX MTAに水中硬化性を付与し得ることが明らかになった.水中硬化性の付与は同セメントの臨床において,特に逆根管充塡など体液・血液に接触しやすい環境下でも安定して硬化し得ることにつながり,同セメントの臨床応用の拡大に寄与するものと期待される.
4. ニッケルチタン(NiTi)ロータリーファイルを用いた安全で効率的な根管形成
4-1熱処理加工されたニッケルチタン製ロータリーファイルの室温および体温での相変態と機械的特性 先端径とテーパーが同一で熱処理加工が異なるNiTiファイル(Hyflex EDM,Hyflex CM,Vortex Blue,RE file CT,JIZAI)と,従来型の非熱処理のNiTiファイル(Mtwo)の相変態温度を測定するとともに,曲げ特性と回転疲労耐性を室温(25 ± 1 ℃)および体温(37 ± 1 ℃)で評価した.結果として熱処理加工NiTiファイルは,非熱処理のMtwoよりも曲げ荷重値が低く回転疲労耐性が高かったが,体温では室温と比べてこの傾向は弱くなることが示された.
4-2異なる熱処理を施されたNiTiファイルの理工学的特性
4種類の異なる熱処理を施された同一先端径,テーパーのNiTiファイル(Hyflex EDM,Hyflex CM,TwistedFile,K3 File)を用いて回転疲労試験,曲げ試験,DSC試験を行った.熱処理型ファイルのHyFlex EDMは他のファイルと比較し,高い相変態温度および高い柔軟性,高い回転疲労耐性を示した.
4-3 ファイルの上下動運動のスピードが動的回転疲労耐性に与える影響
ペッキングモーションというファイルの上下動運動の歯冠側方向へのスピードが動的回転疲労耐性に与える影響を検討した.同じ形態で,異なる金属であるProTaper Universal F3 (PTU) とProTaper Gold F3 (PTG)を用い,根尖側方向のスピードは一定(100 mm/min)とし,歯冠側方向を4種類とし(100, 150, 200, 300 mm/min),静的あるいは動的回転疲労試験を行った.同じファイル間ではスピード間に差は認められなかった.同じファイルでは破折までの時間(Tf)と回転数(Nf )に違いはなかった.どのスピードでもPTGで有意にTfとNfが大きかった.どちらの群でも300 mm/min で破折までのペッキングモーション回数(Np)が大きかった.どのスピードでもPTGはPTUよりNpが大きかった.破折部分の長さに差はなかった。PTUの57.5%,PTGの62.5%で根尖側方向に動いているときに破折した.破折様相は典型的な疲労破折を示していた.
4-4 2種類の彎曲した根管に対する4種類のグライドパスファイルのトルクとスクリューインフォース
4種類のグライドパスファイルTruNatomy (TN), Hyflex EDM (EDM), ProGlider (PG),Dent Craft RE (RE)のトルクとスクリューインフォースの発生について,1つあるいは2つの彎曲を有する根管模型を用いて検討した.発生したトルクは設定トルク値以下であった.1彎曲根管でTNはRE よりトルクが大きく,2彎曲根管でPGはREよりトルクが大きかった.1彎曲根管と2彎曲根管の間でトルクはファイル間で差がなかった.1彎曲根管でEDMはPG,TNやREよりスクリューインフォースが大きかった,2彎曲根管で差はなかった.異なる根管形態はトルクに対して影響しなかったが,EDMではスクリューインフォースで影響を与えた.EDMがどちらの根管でもスクリューインフォースが大きかったが、TN とREでトルクが大きかった.
4-5 NiTiファイルを用いた静的・動的試験に回転様式が与える影響
通常のNITiファイルの静止状態でのトルク試験方法は臨床条件に矛盾しており,正回転・逆回転での有効性には疑問がある.臨床使用条件下の静的動的試験をJIZAI (#25/.04)を用い、異なる回転様式によるねじれへの影響を検討した。静的試験ではJIZAIの先端5㎜を固定し,オートトルクリバースによる正回転(CR),OTRモーション(OTR),レシプロケーション(REC)の3種類の回転様式で破折するまで回転させた.動的試験では直線・彎曲根管を用いてJIZAIを用いて3種類の回転様式で根管形成した.静的試験では破折時トルク,破折までの時間(Tf ),動的試験ではトルク,スクリューインフォースを記録した.静的試験・動的試験で回転様式による影響は認められなかった.しかし,直線根管ではスクリューインフォースに違いが認められた.RECではTfが有意に長く,彎曲根管ではCRでトルクとスクリューインフォースが大きかった.本実験条件下では,トルク以外のパラメータが回転様式に大きな影響を与えた.OTRによる動的なトルクとスクリューインフォースは他の回転様式に類似しており,根管の彎曲に影響されなかった.
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教育活動

当分野では,歯内療法領域をリードする研究者,臨床医の育成を教育目標としている.近年における歯髄生物学や歯内療法学の進展は目覚ましいことから,その最先端の内容を教授するのみならず,神経生理学,分子生物学,免疫学,生体材料学,画像診断学などの関連領域の知識,さらには最新の治療技法の修得に関する教育も行っている.独自の研究に基づき歯内療法領域における新知見を得ることが大学院の修了要件となる.
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臨床活動および学外活動

歯髄生物学分野は,本学歯学部附属病院においてう蝕制御学分野と共にむし歯外来を担当しており,グローバルスタンダードな歯内療法を提供することを目的として診療にあたっている.以下にその代表的な処置内容を挙げる.
・生活歯髄の処置(覆髄法,象牙質知覚過敏症処置)
・非外科的歯内療法
・再根管治療
・マイクロサージェリー
・無髄歯の漂白
・歯内療法後の歯の修復
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臨床上の特色

歯内療法は近年大きく変化しており,Ni-Tiロータリーファイルによる根管形成,歯科用コーンビームCTによる診断,手術用実体顕微鏡下の非外科的・外科的歯内療法(microendodontics)などの導入が図られている.特にmicroendodonticsは,明るい拡大視野下で確実な診断や精密な施術を行うことを可能とするため,今までの「手探りで行ってきた」歯内療法をより確実な歯内療法へと劇的に変化させている.また,本分野における基礎的実験や臨床的研究に基づき,科学的根拠に立脚した歯内療法の提供に努めている.
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