概要 研究活動 教育活動 教育方針 臨床上の特色
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概要

口腔デジタルプロセス学分野は2021年5月1日に設立された分野であり,デジタルデンティストリーの研究,臨床,教育を担当する分野である.このデジタルデンティストリーは歯科学と工学からなる学際的なフィールドである.口腔デジタルプロセス学分野では,歯科学分野における歯科臨床と工学分野におけるデジタル機器(ハードウェア・ソフトウェア)との間をシームレスに接続し,研究,臨床,教育を行える人材を育成する.
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研究活動

1) ミルド全部床義歯
従来の全部床義歯の製作には,来院回数の多さや歯科医師の技術格差に由来する治療の質のバラツキといった問題,さらにはアクリルレジンを使用することでの耐汚染性の問題などがあった.当分野ではこれらの問題を解決するため, CAD/CAM技術を応用した義歯製作方法を確立することにより,少ない通院回数,治療の質の均一化,義歯の物性向上を目指してきた.これまでのミルドデンチャーでは,義歯床のみをミリングし,人工歯を後付けしていたことから人工歯接着面の劣化などの問題があった.そこで我々が考案したのは,患者ごとに人工歯が排列されたカスタマイズドディスクを製作し,最初から義歯床と人工歯が一体化された状態でデンチャーをミリングするという方法(TMDUカスタムディスク法)である.このカスタムディスクについては特許を取得し,本学産学連携掛の協力のもと,海外特許にも申請中である.また,2019年より開始した「CAD/CAM技術を応用した全部床義歯の前向き臨床研究」において,TMDUカスタムディスク法を用いた結果,従来法での全部床義歯製作よりも費用対効果が改善することが示された.我々が確立したデジタルデンチャー製作法では,口腔内スキャナーを用いた無歯顎顎堤の光学印象に始まり,義歯のデザイン・製作をコンピュータ上で行うワークフローで行っているが,今後はデンチャーデザインにAIアシストを導入し,さらなるデジタル化を目指している.デジタルデンチャーのミリングに欠かせないミリング用ディスクの開発やミリングマシンの適正条件の検証などについて,ミリングマシンメーカーや切削工具メーカーとの共同研究も行っている.

2) デジタル部分床義歯
デジタル部分床義歯はデジタル全部床義歯に比べ,研究報告も少なく臨床応用が進んでいない.その要因として,部分床義歯には様々な欠損様式や支持様式に対応する必要があり,その要件に応じて様々な形状での金属材料と樹脂材料から構成されていることが一つとして考えられる.レーザー積層造形(SLM)法にてメタルフレームを三次元造形することは可能ではあるが,その後の人工歯排列や重合操作などの製作過程については従来の部分床義歯の製作手順に沿って行うことになり,すべての工程がデジタル化されているとは言い難い.そこで我々は,全部床義歯の製作で考案したTMDUカスタムディスク法を応用し,患者ごとに排列した既製人工歯とSLM法により三次元造形したメタルフレームを埋め込んだ,部分床義歯用カスタムプレートを製作する方法を考案した.これにより,人工歯部分とメタルフレーム,義歯床部分を一塊でミリングすることができ,これまでのデジタル部分床義歯の問題点を解決することに成功した.このデジタル部分床義歯は乾式のミリングマシンを用いているが,今後は湿式マシンを用いることにより,あらゆる大きさの部分床義歯の製作が可能になると考えている.今後は,カスタムプレートの適切なデザインの検討や,様々な欠損形態に対応した部分床義歯の製作について検討や評価を行う予定である.

3) インプラントオーバーデンチャー
下顎無歯顎患者に対するインプラントオーバーデンチャー(IOD)は非常に古くから研究が行われており,2002年にコンセンサス声明が発表されたように,欧米では1980-90年代に多くの研究が行われ多数のエビデンスが蓄積されてきた分野である.その中で,我々は2008年から東京医科歯科大学附属病院にて臨床研究を始め,現在,患者は100症例を超え,長い症例は10年以上の経過を追っている.これまでに行ってきたIOD研究は下記の通りである.

1)ボールアタッチメントを利用した2-IODの前向き臨床研究 (2008-)
2)磁性アタッチメントを利用した2-IODの通常荷重と即時荷重を比較したRCT (2011-)
3)ミニインプラントを利用したミニIODの前向き臨床研究(2013-2014 McGill大学)
4)1-IODの前向き臨床研究 (2015-)
5)インプラントを利用した部分床義歯であるインプラントアシステッドパーシャルデンチャー (IARPD)に関する昭和大学との共同臨床研究 (2017-)
6)IODのインプラント埋入位置の検討や義歯の動きなどに関する模型実験

一方,上顎IODに関しては世界的にもあまり臨床研究が行われていない.我々は,これまでに蓄積した下顎2-IODのエビデンスや無歯顎補綴に関する知識から,顎堤条件を選択すれば上顎IODも2本のインプラントで義歯の維持が可能であり,超高齢社会において有効な治療手段になると考えている.今後は,上顎も下顎同様,2本のインプラントを維持源とした2-IODの臨床研究を行い,エビデンスを構築していく予定である.

4)医療機器プログラム
2014年の「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」の施行 により,疾患の診断・治療を目的としたソフトウェアが単体で流通することが可能となり,「医療機器プログラム」として規制されることとなった.これにより,医療における様々な分野で医療機器プログラムの開発が進められている.本分野では現在不正咬合の患者に対する口腔筋機能療法や,歯周病治療を支援するアプリケーション(医療機器プログラム)を開発しており,対面診察との相乗効果をはじめとした臨床上の効果を検証する予定である.
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教育活動

学部教育:歯科技工の基礎,全部床義歯製作法,デジタルデンティストリーを中心に以下の講義・実習を担当している。

口腔保健学科口腔保健工学専攻について以下の科目を担当した.
1年生 メディア情報学応用
2年生 全部床義歯工学,全部床義歯工学実習,歯の形態実習,デジタルデンティストリー基礎
3年生 高齢者歯科学,プロセスデバイス工学,CAD/CAMシステム工学実習,部分床義歯工学実習Ⅱ
4年生 CAD/CAMシステム工学演習,統合実習基礎,統合実習応用,画像解析学,卒業研究Ⅱ,卒業研究Ⅲ


大学院教育:
大学院修士課程の研究指導および講義「口腔保健工学特論」を担当した.
大学院博士課程の研究指導および講義「先端口腔保健工学特論」を担当した.
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教育方針

学部教育:Digital dental technicianとDigital dental scientistを育成するために,特にデジタルデンティストリーの分野において最新技術に関する教育を行う.

大学院教育:デジタルデンティストリーの分野において臨床および最新技術に関する専門的な教育を行い、研究を遂行できる能力を身に付ける。
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臨床上の特色

先端歯科診療センター:義歯科の専門医としてデジタルデンティストリー,補綴歯科治療全般を担当している.

義歯科:無歯顎という特殊な口腔内状態に生じた形態的,機能的変化を全部床義歯によって回復し維持するためには,独自な口腔内診査と義歯設計を行わなければならない.具体的には,全部床義歯は口腔内への維持を歯に求められないので,口腔粘膜と義歯床面との唾液を介する付着力に頼らなければならない.全部床義歯にかかる咬合力は義歯床を介して床下粘膜によって支持されるため,義歯床の安定をはかるために上下顎堤の対向関係を考慮し,顎運動と調和した人工歯の配列と咬合様式の付与を行う必要がある.歯および歯の支持組織の欠損による無歯顎者の顔貌の大きな変化を全部床義歯によって回復するにあたり,義歯周囲の筋および関連軟組織の形態や動態との調和を図り,義歯の維持を向上させる形態とする.また歯の喪失および大きな補綴物が口腔内に装着されることによる患者の心理的負担を考慮して応対に注意する必要がある.このような精神状態を含めた全身状態の変化は,口腔粘膜においても変化を生じる可能性が高く,それが義歯の維持,安定の変化,ならびに回復された機能の変化につながる.そのため,定期的リコールを行い,問診やVASにより得られた義歯と機能に対する患者の主観的評価の調査を継続して行い,回復された機能が長期にわたり維持されさらに改善されるよう心がけている.また,当分野独自の評価基準を設け,患者の主観的意見だけでなくEBMに基づいた補綴処置効果の客観的評価も行っている.
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