東京医科歯科大学  医歯学総合研究科  医歯理工保健学専攻  修士課程  2022年03月  修了

修士 (医学)  東京医科歯科大学

日本核酸医薬学会

日本再生医療学会

生体医工学

分子生物学

整形外科学

針を使わない新規経鼓膜薬物投与デバイスによるmRNAの内耳への安全効率的な投与，2024年01月 - 現在

キーワード： 経鼓膜投与, 内耳治療
研究態様： 国内共同研究
概要： 内耳疾患は難聴や平衡障害を引き起こして生活の質を著しく損なう。近年、有毛細胞や聴神経の再生を目的とした遺伝子治療が注目され、mRNAは遺伝子治療のための新しいモダリティとして注目される。内耳は血液内耳関門の存在により血中投与が困難であり、薬剤の局所投与が必要となるが、骨穿刺をせず内耳へ薬剤と到達させるためには経鼓膜投与が唯一の経路となる。しかし、通常の経鼓膜注射法は鼓膜損傷や聴覚への影響が避けられない。そこで本研究では、より低侵襲な内耳（鼓室、蝸牛）への薬物投与を目的とする新規デバイスを開発し、mRNA投与における有用性を検討した。
本デバイスは、薬液を微量ジェット噴射により鼓膜を貫通させ、薬剤を鼓室内に導入する無針注射器である。通常の30G針による鼓膜穿刺法と比較して、mRNAキャリア溶液投与後のタンパク質発現効率、鼓膜組織傷害、聴覚への影響を検討した。
モルモットの鼓室内に、ルシフェラーゼ遺伝子（Fluc）をコードしたmRNAを脂質ナノ粒子（LNP）20 µLを投与した。6時間後に鼓室および蝸牛から組織採取し、FLuc活性を測定すると、デバイス群、30G針群ともに良好なFluc発現が観察され、有意な差は無かった。投与直後の鼓膜の状態を観察すると、両群とも小穿孔は確認されるが、デバイス群は比較的径が小さく、3日程度で概ね孔閉鎖した一方、30G針群では孔閉鎖に1週程度を要した。投与直後の聴覚を聴性脳幹反応（ABR）により評価すると、30G針群は投与前と比べて全周波数帯で有意に聴覚の低下が観察された一方、デバイス群では聴力低下はほとんど生じなかった。
以上から、本デバイスは、低侵襲かつ安全に薬剤を内耳へ投与可能な手法として有用と考.えられ、今後の内耳疾患治療を目的としたmRNA医薬投与への応用が期待される。

変形性膝関節症の疼痛改善と軟骨変性抑制を共に実現する mRNA 医薬，2021年07月 - 現在

キーワード： mRNA, DDS, 変形性膝関節症, 再生医療
研究態様： 個人研究
概要： 変形性膝関節症 (膝OA) は膝軟骨の変性・破壊により、関節痛や運動障害を引き起こす疾患であり、高齢者の運動障害の主要原因の1つであるが、軟骨そのものを治療する根治的治療薬 (DMOADs) は確立されていない。当研究室では、軟骨誘導性転写因子RUNX1 mRNAを膝OAモデルマウスに投与することで軟骨の変性を抑制できることを示しており、非臨床試験を現在行っている。しかし、OA患者の多くは軟骨変性に伴う運動障害に加えて、炎症による「関節痛」も抱えているため、DMOADsには関節痛制御も重要である。そのため、炎症性サイトカインであるインターロイキン1 (IL-1) の拮抗薬であり、当研究室で抗炎症作用が示されているIL-1受容体拮抗薬 (IL-1Ra) mRNAをRUNX1 mRNAと同時に投与することを計画した。
本研究では、モノヨード酢酸 (MIA) 投与によって炎症性OAモデルラットを作製し、その膝関節に①RUNX1 mRNA、②IL-1Ra mRNA、③RUNX1 mRNAとIL-1Ra mRNAの併用 、④Control (HRPES) の4群を投与した。MIA投与の翌日から、mRNAを週2回、4週間投与を継続し、疼痛試験と組織評価を行った。その結果、IL-1Ra mRNAを含む群では、抗炎症による関節痛の改善が確認され、組織評価ではIL-1Ra mRNAによる軟骨下骨の破壊抑制とRUNX1 mRNAによる軟骨基質の変性抑制が示された。さらに重要な点として、2つの治療因子を組み合わせることで軟骨変性抑制の効果が最大化されることが示された。この結果は、DMOADsとしての可能性だけでなく、複数の治療因子を組み合わせることのできるmRNA医薬の有用性を示すものでもある。

ラマン分光法による膝軟骨の分子レベル解析，2020年07月 - 現在

キーワード： ラマン分光法, mRNA, 変形性膝関節症
研究態様： 国内共同研究
概要： 変形性関節症（OA）は関節軟骨が経時的に変性する疾患だが、その軟骨そのものを修復・再生する治療法は現状存在しない。病気初期は痛みに対する対症療法に限られ、軟骨の変性が進行した病気後期では人工関節置換術が一般的な選択肢となっている。しかし、人工関節置換は侵襲的な手術を必要とし、感染症のリスクや人工関節の耐久性といった問題が残る。近年、軟骨を修復および再生を試みる新しい治療法の可能性が注目されている。本研究室の先行研究で、軟骨誘導性転写因子Runx1（Runt-related transcription factor 1）のメッセンジャーRNA (mRNA) を膝関節に投与することにより、軟骨変性の進行を抑制するという報告がされている。投与されたmRNAが軟骨細胞の軟骨誘導能を高めた結果と考えられるが、軟骨基質内での詳細なメカニズムはまだ明らかでは無い。
そこで、本研究は対象を分子レベルかつ非侵襲的に解析することのできるラマン分光法を、軟骨の評価に利用することを計画した。ラマン分光法は、光が物質内の分子と衝突した時に生じる、入射光とは波長の異なる光 (ラマン散乱光) を解析することで、対象の分子構造や結合などの情報を得る解析法である。本研究では、まず、内側側副靭帯と内側半月板を切除して関節不安定性を惹起した膝OAモデルマウスの膝軟骨をラマン分光法で評価した。その結果、軟骨の主要な構成分子であるⅡ型コラーゲン、グリコサミノグリカンなどの分子レベル変化をラマン分光法で検出可能であることを見出した。これらをパラメータとして、軟骨変性の程度が診断可能になると考えられた。また、これらの分子レベル変化は、組織学的に軟骨変性が顕在化するより早くから検出され、膝OAによる軟骨変性の超早期変化を検出している可能性がある。これは病初期での治療が重要になるOAの評価法として重要であり、ラマン分光法の有用性を示している。次に、Runx1 mRNAを膝OAモデルマウスに投与したところ、OAモデルで検出された分子変化が、Runx1 mRNA投与によって正常に近い状態に改善することが明らかとなった。

ベストポスター賞，JST共創の場形成支援プログラム (COI-NEXT) CHANGE，2024年01月